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生徒会、ないしょの欠員1  作者: キュー山はちお
1章 53ページ目までに仲間にならないと心配
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1章の2 花・月・雪・星・宙

 2人が乗ったバイクは、今日からスシが通う泥縄第二高校に着いた。

 ひどい校名だが、スシは自分自身がひどい名前だと思っていたし、そもそも同じ系列の泥縄第一高校からの転入なので、気にしていなかった。

 スシは校門前にバイクを止めた。クロハ会長の荷物を降ろしてクロハ会長と別れ、エンジンを切ったバイクを引いて、自転車置き場へと歩いた。

 スシが生徒玄関の前まで来ると、荷物をどこかに片付けて手ぶらになったクロハ会長と、別の女子1人と男子1人の計3人が待っていた。

「やあクロハさん、そちらの人たちも生徒会役員ですかね?」

「そうよ。書記長と書記次長」

「ボクは前期生徒会で書記長をやっている、力二りきじ書記長です。みんなからはカタカナ読みでカニ書記長と呼ばれています。どうぞよろしく」

「あたしは書記次長をやっているオロネ書記次長。スシくん、よろしくね!」

(2人とも『生徒会長をやっているクロハ会長』みたいに役職をカブらせて言っている。もはやわざと?とスシは思う)

「オロネ書記次長から言っとくけど、クロハ会長、マヤ、カニ、オロネの4人は全員、きみと同じ2年1組なのね」

 そう、マヤさんと同じクラスなんだよ――。オロネ書記次長がそのことに触れたことで、スシは再びしまらないカオをした。

 スシが後で知ることであるが、いずれも容姿端麗ようしたんれいなマヤ、クロハ、オロネは「泥縄第二のカミセブン」に数えられ、中でもポニーテールのオロネは「センター」の呼び声も高かった。

 スシは、3人の生徒会役員に向かってお辞儀じぎをした。

「皆さん、お出迎えいだたいたようで恐縮です。たかが転入生が来たくらいで、大げさな気もしますけど」

「きみは普通の転入生ではない、とカニ書記長は思う」

「?」

 スシは、カニ書記長が何を言っているかわからなかったが、深く追及しなかった。その代わり、疑問に思ったことを素直に口にした。

「ところで、副会長のマヤさんはいないの?」

 3人とも何も言わない。

(む?)

 スシは負けじと数秒待ってみた。

 3人は無言のまま顔を見合わせた。互いに「何か言ってよ」と牽制けんせいし合っている様子だった。

 仕方ないので、スシは少しの間、3人の生徒会役員をじろじろ観察してみた。

 クロハ会長。

 人のことをよく見ているようで見ていないスシなので、特に意識しなかったが、彼女がこの時()いていたローファーはマヤと同一。それ以外の外見の特徴は登校中の記述を参照されたく、ここでは割愛かつあい

 カニ書記長。

 声質はテノール。銀縁のメガネ。男子制服はスシと共通のブレザー、シャツにネクタイ、スラックス。ソックスはスシからは見えないが白。靴はスニーカー。ほどけばオロネやクロハ会長と同じくらい長さがありそうな髪を、業界人のように後ろでたばねている。

 オロネ書記次長。

 ポニーテール。前髪はクロハと同じ真ん中分け。マヤと同等か、あるいはそれ以上の立派な胸。声質はアルト。制服はマヤ・クロハと共通だが、ソックスはダークブラウンのニーハイ。スニーカーはカニ書記長と同一ブランド同モデルのようだ。

 そして3人とも、身長はスシ・マヤと同じ169センチといったところ。

(けっこう待ってみたが、マヤさんについて誰も何も言わない)

 スシは仕方なく、マヤ不在の説明をしてもらおうと、自分から切り出した。

「ねえクロハさん、ところで副会長のマヤさんはいないの?」

「仕方ない。クロハ会長がそれについて説明するわ」

「仕方ないって何? おいそれと言えないくらいヤバいことなの?」

「実は前期生徒会執行部は人手不足に悩まされていて、今朝は仕方なくこの人数なのよ」

「はあ、マヤさんは忙しくて、今この瞬間にも別の用事をかかえているの? 大変だね」

「うん、まあ、そんなところ。でも今日の夕方くらいから、フルメンバーの4人が一度に活動できるようになる予定」

「ふーん。そうか、マヤさんも3・4時間目はクラスにいるって言ってたっけ」

「ここでオロネ書記次長から、スシくんに質問です」

「オレの名前、オロネさんも知っているわけ?」

「あ、ほら、マヤちゃんは知らなかったと思うよ。あなたの名前、あなたがクラスで名乗る前に一般生徒に広めたりしないから、安心してね」

「ふーん」

 スシは「それならマヤさんにも、最初からオレの名前教えといてくれてもいいのに」と思った。副会長のマヤが、生徒会執行部でおミソにされているのでないかと心配した。

「オロネ書記次長続けます。スシくんがこの学校に来て、何かやってみたいことがあれば教えてください」

「何それ、推薦すいせん入試の面接されてるみたい。・・・。そうだなあ、人数が足りなそうな部活に入って、レギュラーにしてもらう」

「小さいなあ」

「いやいやいや、野望に満ちた転入生なんて、今時そこらへんにそんなにいないでしょ。ほんとにいても、気持ち悪いだけでしょ」

「カニ書記長が思うに、スシくんがほんとは『新しい学校で彼女を作りたいです』とか思っていても、初対面のうちらの前では言えないよねえ」

「別にオレ、そんな風に思ってないよ。ほんとに」

「続いてクロハ会長から質問。それならスシくんは、何かの組織の人が『きみ、入ってくれ』って頼んだら、入っちゃう方かな?」

「何その、何かの組織って。あやしいなあ。・・・。そうだなあ、もちろんどういう組織かにもよるけど、どっちかといえばオレは、頼まれたら入っちゃう方かも」

 クロハ会長は「しめた」という顔をした。

「最後にカニ書記長から質問。女子ふたりが両方とも一度に困った状況に追い込まれて、そのうちのひとりはスシくんが好意を持っている人だとします」

「何、その妙な設定」

「いいから。同時にふたりは助けられないとして、さあ、どっちを助ける?」

「何その、心理テストみたいなの。・・・。そうだなあ、二人が困っている度合いによる。すごく困っている方を、まず助けないといけないと思う。あと、好意がないからって考えなしに人を見捨てたりすると、自分が好意を持っている方の人からも嫌われると思う」

 前期生徒会執行部3人は「ほう」という顔をした。

「カニ書記長思うに、スシくん、『人を見捨てず立派』と言えそうだし、『好きな人に嫌われないために、嫌いな人でも助ける計算高い人』という声も上がるかも」

「いや、オレとしては、質問がひとりしか助けられない設定だからそう答えたのであって、ひとり助けたあとふたり目を助けるとか、やりようによってはふたりとも助けられるんじゃないかな。それができる方法を常に考える人間でありたいと思っているよ、オレは」

 カニ書記長は、スシをまじまじと見つめた。スシに対して手応えを感じている様子だった。

「スシくん。クロハ会長としても、全校集会の前にきみと話ができてよかった。それではまた、教室でね」

 スシは3人に手を振ってその場を離れ、生徒玄関に入っていった。

 登校の生徒の数が多くなる中、前期執行部の3人はその場に残って密談を始めた。

「スシくんという人は、こっちが名乗ってもなかなか名乗らない。やたらとためる。クロハ会長です」

「自分でスシという名前を気に入っていないだけじゃないかな。オロネ書記次長」

「でも、あたしらも変な名前だから、その気持ちよくわかる。カニ書記長」

「カニ書記長、『あたし』はやめて。あなたは今、カニ書記長なんだから、キャラに沿って『ボク』と言って。クロハ会長から」

「はい」

「で、カニ書記長とオロネ書記次長、総合的にスシくんをどう思う?」

「身長とか、あんなに条件ぴったりの人は他にいない。がつがつしてない人なのもポイント。何より今回のことの当事者だから、ぜひやってもらいたい。外す理由がないと思う。オロネ書記次長はね」

「えへへ。ああいう人なら、彼氏がいる女子でも分けへだてなく助けてもらえそうだし、いいと思う。異議なし。賛成。カニ書記長も」

「カニ書記長、また話し方が女の子っぽくなってるってば」

「逆にクロハ会長はどう? もう猶予ゆうよもないしこの際、次の生徒会長選挙に向けたいろいろな都合は置いとくことにして」

「その都合を考えたらもう少し時間がほしいけど、今スシくんを誘うことに異議はないわ」

「じゃあ決まりね」

「そうなったら暗号も変更しないとね。今までの『花』『月』『雪』『星』に、『そら』を追加。『花』がシークレットエージェント、『月』が書記次長、『雪』が書記長、『星』が副会長、『宙』が会長」

「カニ書記長わかった」

「オロネ書記次長も了解」

 3人は生徒玄関前から散った。


 初登校のスシは、まず職員室に行った。

 2年1組のスシの担任は出張のため不在で、代わって相手をしたのは副担任の女性教師・キクハであった。担当教科は音楽で、生徒会執行部顧問もしている。大学を出て新卒採用2年目。身長は163センチ程度だが、ヒールの靴をいているので、見た目の大きさはスシと同じくらい。

「転入生くんね。隣の県の系列校からだから、まったく別な学校から来るよりは勝手がわかるかしらね」

「そうだといいんですけど」

 いろいろな書類を提出して手短てみじかにレクチャーを受けたあと、スシはキクハに連れられて、職員室からそう遠くない2年1組に着いた。

 キクハが引き戸を開けると、クラスメイトの殺気立った視線がスシに向けられた。

(え?)

 スシは今回が3回目の転校という、いわば転校のベテランだ。しかし今まで経験したことのない教室の雰囲気ふんいきに、びびった。スシは「なんですか? この雰囲気」という視線をキクハに送ってみたが、キクハはそれに気付かなかったか、あるいは気付いて流したかのどちらかで、そのまま進行された。

(・・・)

「皆さん。今年、1組の副担任となったキクハです。どうぞよろしく。担任の先生は出張でいらっしゃらないので、今日はわたしがホームルームを担当します。そしてこちらは、今日から入る転入生。きみ、名前を黒板に書いて」

 キクハにうながされて、スシは「やっぱり名前を書くのか。そりゃ書くよね」と思いながら、しぶしぶ黒板の前に立った。

 それと同時に女子生徒がすっとんきょうな声を上げた。

「スシくん、質問があります!」

 ぎーっ、どたっ。

 黒板に大きな(中心角90度)が描かれ、気が付くとスシは教室の床に横たわっていた。

 どうやら、チョークを黒板に当てたまま真横に倒れたようだ。

 心が折れたスシだったが、5秒ほどで復活して、質問を吹っかけた女生徒に向き直った。

「ちょっと、どういうこと? オレは転入生でしょ? これからオレが黒板に名前を書くでしょ? そしたら皆さんオレの名前わかるでしょ? オレを名前で呼ぶのはそれからでしょ? 困りますよ、そこら辺ちゃんとやってもらわないと。ね?」

 転入あいさつという重要な局面なので、スシはやんわり訴えたが、かなり動揺していた。

 クラスにいたクロハ会長、カニ書記長、オロネ書記次長は全員「スシくんの名前、あたしららしてないよ」とばかりに、首をプルプル振った。

 後方窓寄りの席から立ち上がってスシに質問を吹っかけた女生徒は、活発そうな、意志が強そうな、それゆえ人気高そうな、これも泥縄第二高校カミセブンの一人、キラだった。

 スシは落ち着きをよそおい、キラに呼びかけてみた。

「それで、質問とはなんでしょう」

「申し遅れましたが、わたしは新聞部長のキラという者です」

 スシは、今日はよくよく役職を強調するクラスメイトに縁がある日だな、と苦笑いした。

「スシくん」

「その名前あまり強調しないで。お願いですから。で、質問とは」

「スシくんの氏名、中型自動二輪免許など資格の有無、趣味などの情報を新聞部が独自に取材を重ねたところ、」

「えらい個人情報ですね。取り扱いに注意してください」

「スシくんは我が校、泥縄第二高校に転校してくる前、系列校で隣の県にある泥縄第一高校に在籍していた、というのですが」

「は?」

「は? ではなくて」

「あ、すみません。『は?』について説明させてもらうと、オレが前にどこの高校にいたかは、これから順を追って自己紹介する中で真っ先に言うところなので、いちいち質問しなくてもいいじゃんか、という意味での『は?』です。オレが前にいたのは、その通り、泥縄第一ですよ」

 スシのその回答で、クラスの大部分が凍りついた。

(え?)

 スシはクラスを1回見回してみた。しかし状況は好転しなかった。

(え? 何? 何? オレ変なこと言った?)

「スシくん、あなた、なんてことしてくれたの・・・」

「え? 転校のこと? 転校ってそんなにダメかしら。オヤジの転勤で家が引っ越したから、そうなったんだけど」

 キラから二つ離れた席のクロハ会長が、静かに立ち上がった。

「スシくん、わたしたちが気にしているのは、あなたの転校そのものではない」

「?」

「生徒減少に見舞われている泥縄第一と泥縄第二は、長年その有りようを検討され続けているのは、知ってるわよね?」

「ええ、向こうの学校でもそれは当然、生徒の大きな関心事ですから」

「昨年、学校経営側の方針として、2校の合計生徒数ではなく、どちらか1校でも存続基準を割り込んだら即統合となったことは?」

「もちろん知ってますよ」

「あなたが1年次まで在籍していた泥縄第一高校は、昨年度末の3月時点で生徒数が存続基準の下限ギリギリだった。あなたが去ったことで、4月から下限を割り込んだかもしれないの」

「うそ! 下限までちょっとは余裕あると思ってた! 普通、ひとりくらいなら転校しても平気じゃないかなあ、ねえ」

 キラとクロハ会長の美少女ふたりがスシの行動をあげつらったのが呼び水になり、クラス中はたちまち怒号に包まれた。

「何してくれてんだテメエ! もし向こうの校舎に統合されてみろ、隣の県だぞ! おれたちどうやって通えばいいんだ!」

「こっちが第二という名前で、後からできたっぽいが、実は建て替えがあった向こうの方が校舎は新しい! 統合となれば古い校舎を壊すことになりやすいから、明らかにこっちが不利なんだ!」

「うまいことこっちに統合されたとしても、1校分の施設を2校分の生徒で使うのは無理がある! 全校生徒が集まろうにも、体育館に入り切らないぞ!」

「下限まで少し余裕があっても、他の誰かのためにわくを取っておいて自分は転校しない、それが美しい姿だろ! 自分さえ良ければいいのか!」

 クラスの連中の勝手な物言いに、スシはあきれて、困った。


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