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いつも見ている  作者: 中町 プー
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いつも見ている②

 やはり女は僕を見ていた。


 今日で一カ月だ。


 雨の日も、晴れの日も関係なく毎日、女は僕を見ていた。


 1週間経とうかという頃には僕はもうあの女に慣れていた。


 毎日毎日、飽きもせずこちらを見ている女。


 僕も2時15分になるとタバコを吸いにベランダに出ては女を確認していた。


 それからはもう恐怖というよりも単純な興味へと変わっていた。


 あの女の正体が知りたい。


 多分、若い女だ。


 しかし学生なのか、社会人なのかは分からない。


 はたまた生きているのか、死んでいるのかも分からない。


 霊の類を信じているわけではないが、あの女はどうも生きているようにも思えない。


 しかし、幽霊の正体見たり枯れ尾花というように、あの女を一概に幽霊だと断定するにはまだ情報が足りず、結局、観察することにした。


 ある日、一体いつまで女はそこにいるのだろうと寝ずに張り込んでいたが、4時かそこらで少し目を離している隙に消えていた。


 あの女は変わらずワンピースを着ており、ハイヒールを履いていた。


 彼女の靴音がカツカツと聞こえてきたこともあった。


 それはいつ現れるのかと見張っていた時、暗がりから突然現れた。二度目にそれは坂の道のため、傾斜によりそう見えていたのだと悟る。


 大学方面からカツカツという足音を響かせ歩いてきたのだろう。


 しかしながら、未だ女が何故あそこに立っているのかは分からない。


 どうにも分からぬことばかりだが、女の動向を僕は毎日観察することにした。


 それが日課になっていった。


 


 


 


 ある雨の日。


 今日も女を観察していた。


 女はいつもどおりこちらを凝視している。


 僕も全く視線をそらさず女を見る。


 傘もささずに一時間、二時間、女はそこに立っている。


 全く微動だにせずそこに立っていた。


 まるで傘地蔵だなと、入れたての珈琲を飲みながら室内から女を見ていた。雨脚が強くなってくるとまた女を見る。


 どうにも少しばかり震えている気がした。こちらからは分からないが、もしかすると僕の勘違いかもしれないが女が震えている気がしたのだ。


 しかし、あの感情のこもっていない双眸はこちらを凝視しており、僕も女を見つめ続ける。


 なにが起こるわけでもなく、女は僕を見続ける。


 特にこちらに近づいてくるわけでもなく、声をかけてくることもない。かっ開いた眼だけが女の存在をこちらに訴えてくる。


 それ以外の行動はない。


 ずっと僕を見つめてくるのだ。


 僕は震えているかもしれない女に何故か同情に似た感情が芽生える。幽霊かもしれないのに同情なんておかしいかもしれないが、どうにも放っておけないのだ。


 何故か不安になる。


 可哀想だと、不憫だとよくわからない感情が次から次に飛来する。


 どうしよう。


 駆け寄って傘でも貸そうか?


 いや、それは気持ちが悪い。彼女が気持ち悪がるかもしれない。


 どうしよう。


 答えが出ないまま、彼女を見つめ続ける。


 僕はどうしたらいいだろう?


 そうして、その日は眠ってしまい、気が付けば朝となり彼女はいなかった。


 


 


 


 この何の変哲もない毎日が嫌だった。


 かといって大学に行きたくもない。


 小説とテレビを見て、飯を食らい寝るだけの日々に辟易していた。


 しかし、今は違う。


 彼女がいる。


 彼女だけは僕を見ている。


 そうだ。


 大学の奴らとも違う。


 彼女が僕をちゃんと見ている。


 他の奴らはどうだ?


 僕を見ずに陰口に盛り上がり、馬鹿に騒いで生きている。


 しかし、彼女は違う。


 きっと染めたことのないであろう清楚な黒髪に高い鼻梁。あの細い体躯はきっと美しく、見る者を狂わせる

 ほどであろう。

 何よりもその目が好きだ。

 大きく存在感のある、強い意志を感じる双眸がたまらなく僕を夢中にさせる。


 よく見えないが、彼女はきっと美人だ。


 目が落ち窪んで見えるのも夜のせいだ。


 もしくは彼女は少しメイクに詳しくないのかもしれない。そうだ。きっとそうに違いない。


 彼女は大学の茶髪と黒の混ざった、あんな下品な髪ではないし、モデルのなり損ないのような体形に似合わない服も着ないはずだ。


 彼女はそれでいて一途な人に違いない。


 僕だけを毎日見てくれているわけだ。そうに違いないのだ。


 大学の馬鹿な男に媚びへつらい、次から次へととっかえひっかえし、恋に盲目だと宣う馬鹿に馬鹿を塗りたくった白痴のような外道どもとは根底から違うのだ。


 そうか。


 僕は彼女のような人を待っていたのだ。


 僕は彼女に会うためにここに来たのだ。


 何も大学の馬鹿どもと戯れるためにここに来たのではない。


 ああ。彼女が愛おしい。


 ああ。夜が待ち遠しい。


 どうして夜にしか来ないのだろう?


 もしかして恥ずかしがっているのかしら?


 彼女の顔はよく見えないが、その瞳がまた見えた。昨日見たばかりだとしてもあの何か虚空を見つめる瞳に恋をしているのだ。


 魅力的な瞳に恋をしているのだ。


 ああ。早く夜よ来い。


 そうして貴方を待っている。


 僕も一途に待っている。


 だから早く来い。


 さあ、夕日が見えてきた。


 こうしてはいられない。用意しなくては。


 僕はタンスをひっくり返すと、一番お気に入りの服を着こみ、彼女を待つ。


 出来立ての珈琲を味わい、タバコを一本吸い終え彼女を待つ。


 ああ。待ちきれない。


 頭の中ですべての思考が停止して、ただ一つに収束する。


 彼女に会いたいと。


 今望むことはそれだけだ。それだけの為に生きているのかと細胞が湧きたって貴方を求めている。


 ああ。早く来い。


 ああ。早く。


 ああ。


 …………。


 ……………………。


 ああ。来た。


 彼女だ。


 彼女が来た。


 こんばんは。今日も来てくれてありがとう。


 さあ。今日が始まった。


 さあ。今日はいつまでも見つめ合おう。


 今日はいつまでも愛し合おう。


 


 

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