運転免許を返納する時は、お疲れ様とかじゃない
ドゴオォッ
最近、交通事故が多い。特に高齢者による交通事故。
年齢による体の衰えと感覚の鈍化、勘違いというボケ。さらにこれまで車を運転してきたという、自信がそーいう事を引き起こす。運転免許の自主返納も勧められている時代にもなった。
ああ、どうか。
一般家庭にも自動運転が浸透される生活にならないものか。
「コラーーッ!なにぶつけてくれるんだーー!」
三矢が運転する車は、信号待ちのところに後ろから思い切りぶつけられた。ブレーキまったくなしの衝突。
ブレーキの踏み間違い。怪我人が出なかったのだけが、救いである。
「あ、ああぁっ……」
事故を起こした高齢の運転手は混乱気味。だが、三矢の車だけにぶつかっただけで済んでいるのは幸いか。周囲の人達は、大惨事にならなくてホッとはしている状態で、眺めている。
「俺、不幸だよ!車が傷付いてんじゃん!」
運転手はパニック状態でオロオロするしかない。当て逃げされてさらに事故を起こすかより、マシ。相当、低いハードルでの対応をしている。ひとまず、警察を呼んで事故対応をしてもらうのと。
「あんたは怪我してないんだよな?救急車も呼ぶぞ!」
念のため、救急車も手配。
細かい事故の原因なり、補償なりはまた後日となる。
◇ ◇
「は?交通事故を起こしてない?」
「おい!昨日ことを覚えてないとか、ふざけんな!」
警察官と三矢は、唖然としている顔だった。
お互いに体だけは無事だった。ここからは保証の話しとなったわけだが、
「儂が運転してたという証拠がどこにあるんじゃ!」
「ドラレコあるし、写真とか撮ってますよ」
「なにがドライブレコーダーじゃ!!写真ってなんじゃーー!」
「略称分かってる時点で、ボケられてねぇーじゃん」
運転していた人は自分がボケていて、事故なんて起こしていないと、訴え始めた。名誉毀損だとも言ってきているわけだが、三矢と警察からしたら物損事故、過失運転が余裕でとれる。
三矢の車が買ったばかりの新車であり、かなりの請求額だった。おまけに自分の車も結構な破損。保険も利いてはいるが、ちょっとビックリの額。なにより運転手にとって最悪なのは、10対0の完全敗北。三矢は何も払う必要なしであった。
いやほんと、死亡事故にならなくて良かったと思いたいのに、こんな言い訳をされるとは思わなかった。
「儂は車なんかもっとらん!あれ、息子の車じゃ!儂やってない!だから、儂じゃないもん!」
「息子さんの車で事故を起こすんですか……」
「おいおい。見苦しすぎるぞ、ホント。っていうか、”だから”とか使うな」
確かに車の本当の持ち主は違った。
「爺ちゃん。俺の車だって!親父のは別じゃん」
「わわわわ、どどど、どっちでもええんじゃ!!黙っとれ、孫!」
「あ、お孫さんの車でしたね。今、確認とれました」
「孫が買った車で事故を起こすなよ、爺!!」
今時、珍しく。20代の子が車を買っているという……。これはもう、車を買ってくれとお願いする車業界さんもお怒りの事故であった。
お孫さんの方はしっかりしているのか、責任を感じているのか。
「爺ちゃんに鍵を貸しちゃった俺の責任もあります。車を貸す人間にも責任はあるんですよね」
「……そうですねぇ。あなたの責任も問われます」
「あ!じゃあ、爺ちゃんが勝手に鍵をパクッたとかにしてください!」
「それでも変わらない」
事故を起こしていないからこそ、冷静なんだろう……。
お孫さんの方が話しを仕切る感じで対応してくれる。ああ、ホントにこーいう時。子供やお孫がいるのはいいものだと、まだ独身の三矢はヒシヒシと感じる。老いた自分を助けてくれるのは、自分が産んだ子供だけなのかって。
一方で……
「儂はやってない儂はやってない」
「年取ると大変だな」
免停の経験があっても、未だに自分はミスをしておらず、完璧な運転ができると思っている人ほど。
「爺ちゃん。車を運転するのはもう辞めな。もう鍵、渡さないけど」
「だから!儂は事故なんか起こしておらん!」
現実を受け入れたくないんだろう。
幾度とそんなことはあったろうに。
「これはなんかの夢じゃ!だ、騙されておるんじゃ!孫!」
「そー思いたいけど、俺の車壊れてるしね。ってか、壊されてるんだけど」
「お爺さん、免許の返納をしてください。今回は物損でしたけど、下手すれば殺人になりましたよ」
「わ、儂の運転が危ないとでも言うのか!こいつが避けないのが悪いんじゃ!」
「赤信号で停止中の車がなんで避けれんだよ!むしろ、もっと危ねぇ!事故を起こしてるの、お前!!」
現実的なことじゃないことが起こる。そんな日常ばかりだ。
ひとまず、自分自身の車の買い替えは
「まー、爺ちゃんが死んだ時の金で、新車を買うようにするから安心してくれよ」
「孫、辛辣だな」