色々塗れ天使
「……そろそろ、羽根の色を変えてみるべきだと思うんだ」
輪になって集った天使たち。
そのうちの一人が、そんな提案を切り出した。
「いいね。白だと決めつけられるのは、どうにも面白くなかった」
「……どんな色がいいかな?」
「じゃあ、赤はどうだろう」
「うん、いいんじゃないか?
よく目立つし、情熱と愛の色でもある。ぴったりだ」
「いや、ぼくに言わせればイメージが悪いなあ。
ぼくらの思想には近い色だけど、何より流れ出る血が連想されるし……あれだよ、古今東西、危険を示す色でもあるじゃないか」
「なら、青は?」
「うん、空だって海だって青なんだ、それはいいんじゃないかい?」
「いや、ダメだね。空も海も青だからダメなんだ。
ぼくら自慢の羽根が、溶け込んで見えなくなってしまうじゃないか。
それじゃあ、ありがたみも何もない。――見えなきゃ意味無いよ」
「青もダメか。
じゃあ……緑は? 豊かな自然を表すんだ」
「いいね、豊かな自然」
「それもどうかなあ。
共存なんて体のいいおとぎ話だよ? 当てつけだと思われる」
「となると、黄色かい?」
「ふむ。明るい色だからね。太陽を背負っているようにも見える」
「そんな、黄色だなんて! ぼくらの輝きが混じると、金色とほとんど同じじゃないか。
ぼくらがカネにあかせたように金ピカなんて、それこそ滑稽すぎて笑い話にもなりゃしないよ」
「……ああもう、じゃあどんなのがいいんだ? 銀色とか?」
「神々しくていいな。それに、美しいよ」
「神々しい? とんでもない! そんなの、灰色とほとんど変わらないじゃないか。
ぼくらがそんな、白とも黒ともつかない曖昧な色でどうするのさ」
「……決まらないなあ……もっといい色はないかな」
「――もう、それぐらいでいいんじゃないかい?」
それまでずっと黙っていた一人が、深く深くため息をついた。
「なんだい、その言いぐさは。ぼくらは真剣に悩んでいるのに。
だいたい、君は何の提案もしていないじゃないか?」
「そうは言ってもね……。
ああ――そうか。
みんな、自分の背中は気にしないし、他人のは見てもいちいち何も言わないから、揃って気付いてないのか。……ほら」
もう一度ため息をついて、彼はくるりと背を向け、皆に羽根を見せる。
「ほらね? これまでずっと、同じような議論をしては色んな色を塗ってきたから。
ぜーんぶごちゃ混ぜになっちゃって、もうすっかり真っ黒なんだよ。
――だから、今さら何色を塗っても一緒さ」




