STORY5:解放の物語
今回もちょいちょい視点が変わるのと、同じ状況が別視点で書かれてる箇所が存在します。
基本は雫視点です。
この裏世界に蔓延る敵と呼ばれる存在と住人の存在。ただ、少女、雫は折原夏菜が住人であると知っただけでそれが魔法少女であることは知らない。住人=魔法少女という考えがないためだ。
折原夏菜の姿が最初の時と変化していることに雫も気づいてはいるものの、その詳しい訳までは知らない。
敵、名をフォルトゥナと言う。折原夏菜は、強大なその敵を倒すため、雫を負の運命から解放するため、自身の持つ力を解放する。
「折原さん?」
「大丈夫、すぐに終わる。これが終わったらまた話の続きをしよ」
折原さんの今の姿はとても美しい。炎を思わせるような光を纏いより神格化したみたいに感じてしまう。
折原さんが腰に右手を翳すとそこに新たな剣が現れる。刀身が赤く光り、そこも炎を思わせる。
「ふん!」
折原さんが剣を横に振る。そこから炎の鳥が出現し怪物に向かって飛んで行く。さらに、折原さんの背中にも、炎の羽が付いた。折原さんが屈み盛大にジャンプする。折原さんの姿がすぐに小さくなってしまい、また私は1人になってしまう。きっと、少し前の私なら怖くてたまらなかったかも知れない。でも、今は違う。折原さんなら大丈夫。そう信じたい。
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再び折原夏菜の元を離れ敵の元へと向かう。折原夏菜が自分の力を解放の2段階目を行ったのは、今回が初めての事。折原夏菜にとっても今回の雫を解放するために倒さなくてはならない敵は強かった。
敵のの種類は現在確認できている物で2つ。1つは人によって生み出された産物。人々の負の感情を元に裏の世界へと出現し、表世界に恨みを力とする。
2つ目は個人にとりつき、負を与え続ける存在。
それぞれで敵の強さに大きな差が生まれる。前者は多くの人の小さな負の感情が積もり積もって生まれた物。後者は、1人の人間に付きその人を負に追いやる。後者は1人を多くの人間で追い詰めることが多く、言わば、人を操ることが出来る。それ故知性を有し、敵の強さもより強くなる。例として、自身が危険になると、その攻撃パターンを変えたりすることができる。今回、雫が理不尽に巻き込まれたのは後者であったがため。
厄介なのは、後者による事が起因し、前者の敵が出現してしまう事。そうなっては負の連鎖を止めることは叶わない。
「キキキャーーーー!!!」
敵が甲高い方向を上げる。その声は空振し、折原夏菜の接近を阻む。しかし、解放している今の折原夏菜にはその効果は極めて薄い。
そんなもので、足止めされてる時間は無いの。
折原夏菜は右手に持った剣を構えると、一気に空中の突き進む。敵も黙っては居ない。折原夏菜の接近を阻むため無数の歯車が彼女の行く手を遮る。その奥に、赤い目をした敵が居る。敵の歯車で出来た羽が1度羽ばたくと、そこから歯車が散弾銃の様に飛んで来る。
「く!」
自らへのダメージを解放しているとは言え、ただ飛んで来るだけではなく、歯車は回転している。回転した歯車が、折原夏菜の体を傷つけて行く。
尽きることなく無数に湧いて出て来る歯車。その歯車がある限り、敵にダメージを与えたとしても、折原夏菜が決定的なダメージを与えることは出来ない。
「でも、スピードなら負けな」
今の折原夏菜は先程よりもさらに早く立ち回ることが出来る。それが、彼女が解放を行ったことにより出来ることの1つでもある。
「運命神フォルトゥナ。何故、雫にそこまでの理不尽を、負の運命を課す!」
雫が、今も苦しむ要因。それが目の前に居る敵。幸運をもたらすこともあるはずの敵。だが、それは雫には訪れなかった。そして、
「人を操って何が面白い?」
多くの人間が、操られ、何も思わずに、雫を傷つけて行った。それでも、雫を傷つけた者全員が操られていたわけではない。ほんのごくわずか。あとの大多数は自らの意志で、操られることなく、雫を苦しめた。その罪は決して消える物ではない。だが、その罪を償わせることもまた、同時に出来ないのだ。
「お前たちは、この裏世界に現れて、一体何を望む?」
今回の敵の他にも表れ続ける敵。その敵が居る限りこの裏世界での住人は増えてゆく。
折原夏菜は雫を住人にはしたくない。この世界のことは雫は知ってはならなかった。もし、雫がこの世界を知ってしまったのなら、きっと優しい雫は自分を苦しめた人を許してしまうかも知れない。雫には、自分を始め許して欲しいとは思っていない。彼女を苦しめた事実が消えることはないのだから。
この世界の敵と言う免罪符などあってはならないのだ。
敵の手には歯車で出来た槍が握られている。そ槍の先端は三又に分かれており、今もその先端部分がにび続けている。
敵が手に持った槍を投げる体制に入る。
「まずい」
このままでは、自分の後ろに居る雫に当たってしまう。狙いを自分自身に向けるため、折原夏菜は炎の鳥を飛ばしながら、敵の目を自分に向ける。
そう、こっち。こっちを見なさい。あんたに、あの子をこれ以上苦しませないわ。
ほぼ、反転したところで、敵が槍を放った。折原夏菜は、その攻撃を上空へ逃げる形で躱す。
放たれた槍はどこまでも突き進んで行き、止まることを知らない。進路にあったものは全て貫き、後にはその、後だけが残っていた。
僅かに掠った腕から出血が続く。受けたダメージを解放する。それは諸刃の剣だ。解放可能の時間を迎えれば、折原夏菜は壮絶な苦痛に襲われる。そして、残された時間もそう、多くはない。
「ここまで私が劣勢になるなんて。余程なのね」
自分をここまで追い詰めた敵、フォルトゥナ。最初は手を抜いていたわけではない。折原夏菜的にも、力の解放を行わずに居られるのであればその方が多少の危険は伴ってでも解放は行いたくはないのだ。解放は折原夏菜にそれなりの負担をかける。もし、その負担が戦闘中に表れでもしたら本末転倒。
今回、その危険を冒してまで、2段階目の解放を行たのはそうしなくてはならない状況にあったから。
互いに力を増した者同士の攻防はより一層壮絶を極めた。特に、折原夏菜の力の増大はとても著しかった。敵の攻撃を受け付けず、飛んでくる攻撃は躱し、剣で払いのけて行く。その折原夏菜を見た敵は、目を見開くと、歯車を手元に集め、鞭へと変化する。
歯車の鞭は撓るというよりも歯車の回転を利用して無理が撓むような感じだ。それは歯車の動きに比例していく形で強度を増す。
「キキェェェェェーー」
敵が叫びながら鞭を地面叩き付ける。ビル4階分に相当する大きさの敵。一回り小さくなったとはいえそれでもその大きな存在は依然として折原夏菜よりも優位な立場にあることに何ら変わりはない。
叩き付けられた場所が一瞬で陥没し、先ほどの時よりもさらに鞭の威力が増している。攻撃力全体が増したのだ。
さらに、敵の動きは今まで鈍かったはずが、歯車の羽を動かし空中へと移動を始める。これには、折原夏菜も驚き、まだ他にも明らかになっていない力があるのではないかと、不安になる。
驚いてる場合じゃない。時間がないのよ。
自身に言い聞かせるように、唇を噛み、手を拳を強く握る。その強さに押され出血が起きる。それでも、折原夏菜にはその痛みは感じられない。それが、彼女が今どういう状況にあるのかを明確に語っていた。
「今の私は止まることは許されない」
地面を敵目掛けて突き進み、敵の足元から剣を敵に刺しながら一気に敵の体を駆け上がる。その折原夏菜を払おうと、敵は自分の体に歯車を飛ばしにかかる。
歯車同士の金属音が響き、折原夏菜と敵の体に歯車が当たる。敵は、自分の体が傷つくのを厭わずに折原夏菜を倒すためだけの行動をとる。
「っまだ」
敵の首元に立ち、剣を逆手に持ち突き刺す。
「爆ぜよ!」
敵に刺された剣が輝きだす。その光は熱を持ち敵に苦痛を与えていく。悲鳴を上げる敵。だが、苦痛はそれだけでは終わらない。折原夏菜の「爆ぜよ」という声に剣は反応した。敵の悲鳴が徐々に大きくなっていき、悲鳴が一度止まった時、
ドーーン!
敵の首元が大爆発を起こす。その威力はすさまじかった。爆発の衝撃波は雫の居るところまで届いた。雫は折原夏菜のことをただ遠くから見守ることしか出来ない。
爆発の起きた戦場は爆心地である敵の周りが綺麗に陥没している。爆風が晴れると、敵から少し離れたところに折原夏菜は着地する。場所は倒壊したビルの上。赤い髪を風に揺らしながら敵の状況を確認する。
「なっ!?」
爆発による黒煙が晴れ、奥から敵が現れる。あれほどのダメージを受けても尚、立っている。敵が顔を上げ、声を上げる。
「まだ足りないというの」
徐々に解放のタイムリミットが迫る折原夏菜はすぐに攻撃を再開する。これ以上時間をかける訳に行かない彼女は捨て身の攻撃に出る。
敵の攻撃を自身の目の前に飛んで来る攻撃だけを避ける。それは、彼女の体を傷つける速さを上げて行った。
一瞬攻撃の波が弱まったのを見て、炎の鳥は送り込む。さらに、その場で一回りして炎の竜巻を出現させる。
「これなら、どう」
炎の竜巻を敵に向かって倒すように攻撃していく。炎に包まれていく敵。しかし、折原夏菜はそれに満族ずることなく、自身も炎の中に身を投じていく。
敵が羽を羽ばたかせると炎の威力は徐々に弱まって行く。それにより、折原夏菜の位置が敵に分かりやすく告げる。敵は彼女の位置を把握すると、素早く歯車の槍を作り上げる。
「さっきより早くなってる」
歯車の集束スピードが速まり、攻撃の間隔が短くなる。それは折原夏菜にとってより状況を悪化させる一方だった。
槍を完成させた敵は、彼女目掛けて一気に槍を振り下ろす。それを剣1つで必死に受け止める。
「うぁっ」
敵の攻撃の重みに潰されそうになる折原夏菜。敵の攻撃を持ちこたえているのは、彼女の執念の強さともいえるだろう。
敵の重みが徐々に彼女を苦しめていく。両手で剣を支え自身が潰されない様に持ちこたえる。だが、敵の攻撃が弱まることを知らない。
「いつっ」
腕に強い痛みが走ったのがわかった。彼女は自分の腕に目をやると、
「くっ」
左腕が折れていることがすぐに分かった。そして、今の痛みは彼女にタイムオーバーを告げる物でもあった。
腕が折れたことに気を取られた隙に折原夏菜は攻撃を受ける。その衝撃で意識が飛びそうになる。槍が地面に突き刺さり地面が割れる。衝撃は折原夏菜の体を簡単に吹き飛ばした。
「があっ」
瓦礫に衝突した折原夏菜。そこに追い打ちをかける様に、彼女の体を猛烈な衝撃が襲った。
「う、うあああああああああああ!」
今まで解放により免除されていた本来受ける筈の衝撃、苦痛と言うものが一気に押し寄せる。それは、彼女を蝕み、行動を不能にした。
悶えることさえ出来ない彼女は、ただ、苦痛を受け続けることしか出来ない。その折原夏菜の悲鳴と言う悲鳴がこの一帯に木霊する。それは、彼女の居場所を伝えているようなものだった。
これだけ彼女が動けない状況にあるにも関わらず、敵が攻撃してこないのは敵が自分の傷を癒してるから。それが終われば間違いなく止めを刺される。なんとしてもこの場を離れなくてはならない折原夏菜だが、体が思うように動かない。痛みに必死に耐えながら、倒壊した建物の陰に身を潜める。
「ああっ!」
小さな動作でさえ、受けた傷に響き苦痛へと変貌を遂げる。今の折原夏菜はどうすることも出来ない。
ガラ・・・
瓦礫の崩れる音がした。折原夏菜は敵が迫って来たのかと思い、呼吸が慎重になる。
「折原さん!」
声がした。折原夏菜が守らなくてはならなかった存在。敵の理不尽を受け、密かに消えようとしていた少女の声が聞こえた。
「しず、く・・・」
「折原さんっ」
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折原夏菜はまた私救うため、あの元へと向かった。遠くからだったし、向こうで何が起きてるのかなんて私には分からなかった。でも、折原さんなら大丈夫。そう信じたかった。
「大丈夫だよね。折原さん」
私は、ただ、祈ることしかできなかった。すぐに終わらせる。私はその言葉を信じたい。信じたいけど、それを否定して来るかのように折原さんが危険な目に合ってるようにしか私は思えなかった。
ここからでも、あの化け物の姿が変化しているのは見て取れた。その化け物の周りを赤い光がチラチラ光っていた。多分、それが折原さんなんだと思う。
私は祈りながら折原さんを待っていた。私には、何も出来ない。何の力も持っていない。私の為に頑張ってくれている。本当なら私はとっくに捨てられてる存在なのに・・・。
雫は今の状況に留まっていることが本当に良い事なのか考え始めていた。今、折原夏菜がああして、雫の負の原因と戦ってるのだって、それは、雫自身が解決しないといけないと思っている。他人に、自分の問題を背負わせている。その思いが雫の心を苦しめ始める。
あの化け物が私の方を見てる。この距離からでも私の場所わかるんだ。
私はこれが定められたことなのだとしたら、それはきっと受け入れなくてはならないことなんだと思う。無理に、その定めに反しようとするから、私だけでなく、関係のないはずの折原さんまでも巻き込んでしまった。
折原さんは私は誰かに責め立てられる必要なんてどこにもないと言ってくれた。私はそれだけでとても嬉しかった。私の事を、心配してくれる人が居たことが分かっただけでも十分に嬉しかった。そこで終わりにしておけば、きっと彼女がこんな危険を冒す必要はなかったかもしれない。
「私はまた罪を犯した」
赤い光。折原さん?
折原さんが化け物を引き付けている。次の瞬間だった。爆発が起きた。何が起きたのか私には分からない。
「うわぁっ」
衝撃が私の体を揺さぶる。今のが何なのか私には分からない。でも、もう、私はこれ以上ここに居る意味はないと思った。
きっと、私がここを動いたら折原さんは怒ると思う。でも、ここであの化け物が私の位置を把握できるなら、もうどこに居ても同じな気がした。それなら、私は折原さんの傍に行きたい。
雫は折原夏菜に連れて来られたところを飛び出し、彼女のいる所を目指して走り出す。戦いの衝撃が無防備で、何も持ち合わせていない雫の前に立ちはだかる。それでも、雫は止まろうとはしない。
雫は、化け物の位置を目印に走り続ける。途中あちこちに躓き、転んで傷を負っても止まることなく、一心不乱に折原夏菜の元へと向かう。
「――あれは」
化け物の持つ槍を見た雫は目を見開く。さっき一回だけ目にした物。どんな物かは雫には分かるはずもない。でも、折原夏菜が危険なことになると言う事だけは分かった。
折原夏菜の安否が気になる雫の足はさらに速くなる。
「うわっ!?」
頭上からは、先頭による瓦礫が落下して来る。それに当たらない様に気を付けながら先を急ぐ。
「折原さん、どこ?」
走って走って、化け物の付近にやって来る。その化け物を前にすると、今も恐怖で足が竦みそうになる。許されるのならすぐにここから立ち去りたい。でも、私は逃げるという行為が許されない。自殺さえ許されないのだ。
折原夏菜を探す雫に、一番聞きたくなかった悲鳴が聞こえた。
「う、うあああああああああああ!」
今の声折原さんの。まさか・・・。
雫の頭に最悪の出来事が想像される。雫は必死に声の聞こえた方に走る。雫の目には涙が浮かんでいた。それは、あの悪夢が蘇り始めていた。自分のせいでまた、誰かが辛い思いをする。それは雫にとっても耐えられるものではない。
「そんな」
角を曲がると、そこは瓦礫の山で先が封鎖されていた。しかし、その先からは間違いなく折原さんの声が聞こえる。
「折原さん!」
私は迷わず瓦礫を昇って行った。その先い折原さんが居ると信じて。
「居た」
私は声を上げた。
「折原さん!」
折原さんが私の方を見てそっと私の名前を呟いた。そのまま意識を失ったように見えた私はすぐに折原さんの元へ駆け寄った。
「折原さん、しっかりして」
私は折原さんの体を抱える。見ると、体のあちこちに傷が出来ている。私は自分の手に目をやると、折原さんの血で出が染まっていた。
「折原さん、こんなに大けがして。ごめんね。私のせいで」
「あなたの、せいじゃ、無いわよ」
「折原さん・・・」
折原夏菜は雫の前に座ると、雫の頬に手を当て涙をそっと拭う。しかし、彼女を襲う苦しみは休むことを知らない。すぐに、倒れ込んでしまう。その彼女を雫が支える。
敵、フォルトゥナは未だに動いていない。それはまだ、回復が終わっていない。しかし、折原夏菜はこれ以上の回復を望めない。折原夏菜の表情には苦しみだけが現れている。そんな彼女を雫は見ていられなかった。
どうして、どうして折原さんがこんなに傷つく必要があるの?私がこの世界でまだ生きたいと願った事が行けなかったの?私には、どんなことも許されないというの。
私はただ、普通で居たかった。それだけなのに、普通であることを禁じられてからは、静かに過ごしたかった。でも、いつも、それは終わりを迎える。私はその度に苦しんできた。でも、それを他の人にも思わせようなんて一度も思った事なんてないのに。
「うぅ、うぅ」
私はこの現状になくことしか出来ない。他に何が出来るのか分からない。私には折原さんを守る力も、自分を守ることさえ出来ない。自分さえ満足に守れてない。
何も持たない自分が嫌になった。もし、この寂しい場所で死ぬのなら私1人で十分だ。折原さんは関係ない。
「ねえ、折原さん。ここから逃げて」
「な、何を、言うの?」
「もうこれ以上折原さんが苦しむのを見てられないよ」
これは私の本心だ。折原さんは私の言った事を受け止めては居ないみたい。
「雫はどうするの?」
「私は良いよ。元々消えようとしていたんだし」
「雫を置いてここから逃げるなんて真似、しないわよ」
ああ、なんて優しいんだろう。折原さんは。こんな時でも自分より私を優先してくれる。私にここまで行ってくれるだけでも、私は十分に幸せだ。
「それに、あいつをどうにかしないと、どっちみちこの世界からは出られない」
私は言葉を失うしかなかった。こんなのあんまりではないか。一方的にこの世界に連れ込まれて、それで出ることが出来ないなんて。
どうして、どうして、どうして。どうしてこうまでして、私以外の人も負へと誘うの。
「どうしてよ!」
雫の叫びが大きく響き渡った。
「どうして、私に平穏をくれないの。私はもう何も持ってない。失うものは全て失ったよ」
それとも、折原さんと言う希望を得たことがいけないのか。私の最後の光であった、折原さんをここで私に失えと言うのだろうか。
「もう、私は何も持ってない。もう、私から何も取らないで。私は、何も願ってない!」
(ならば、願うか?)
それは雫に聞こえた声だった。雫だけではない、折原夏菜にも聞こえている。
(汝は、願うか?)
その声は女性の声のように聞こえた。
「ま、まさか・・・」
折原夏菜は、この声の主を知っているようで、焦りの表情が現れる。
「願う?」
(自信を変えることを、汝は願うか?)
雫の言葉に答える様に、謎の声は雫の頭の中に入り込む。
(この世界の住人となり、願いを叶えるか?)
「住人?」
住人、折原さんが時々口にしていた言葉。この世界の住人。
「雫、その声に耳を貸さないで」
「折原さん?」
「雫はこちら側に来ては駄目」
必死に私を止めようとする折原さん。でも、
「それは、折原さんを助けられるの?」
(汝が望むのであれば)
なら、私の考えは1つに決まっている。
(汝は願うのか?)
「その前に聞かせて」
(何をだ?)
「住人って何?」
私は住人が何なのか知りたかった。
「イズモ、答える必要はないはずよ」
イズモと呼ばれる謎の声の主。だが、その姿は見当たらない。折原さんは空に向かって叫んでいる。
(住人と言うのはある者たちの総称だ。住人とは願いを叶えた者。奇跡を手にし願いを叶えた者たちの事を言う。今の世はその者達をこう、呼んでいる。魔法少女と)
魔法少女。それが住人。
「イズモ!」
折原さんはイズモと呼ぶ人物に向かって叫ぶ。
(折原夏菜。汝、今にも死にそうではないか。この者が住人になることは汝にとっても不利益ではあるまい?)
どうやって折原さんの状況を知ったんだろう?
(さて、汝。名を宮原雫と言うな?)
「な、何で私の名前を?」
私の名前をイズモが知っていたことに、折原さんの顔が一気に曇った。
(汝は住人に成り得る資格の持ち主ということだ)
「駄目よ。そんな真似したら、この子はあいつと戦う運命になるのよ。ただでさえ今理不尽な運命に苦しんでる雫にこれ以上の理不尽を突きつけるの?」
(折原夏菜。汝はそれを決める立場にあらず。決めるは、宮原雫)
私は願いを持っていいのだろうか?私がなにか願えばそれはきっと負の始まりになるだろう。しかし、それを避けて折原さんにこれ以上のことはさせたくない。だから、自ずと口は動いた。
「私の願いは――」
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