銀色世界に映える――
銀色世界に佇むエリカ
静かな夜の住宅街に、しんしんと降り積もる白の結晶。数メートルごとに点在する青色LEDの灯りと共に、音も無く足跡もない世界が広がっている。
”彼女”はその一角で寂しそうに佇んでいた。わたしはそんな彼女の存在に気付くまでに相当な時間と、気持ちを要してしまったのだけれど、今はそんな彼女の”心”を私自身が体現してしまっている。
× × × × ×
「あなたはどうするの? 家の財政事情は寂しいのではなくて?」
「そ、そんなこと、他人のあなたに言われることでもないです。もちろん、行きます。そうじゃないと、ますます……」
「そう? 無理はしなくてもいいのよ。人は誰もが平等ではないのですから。当たり前のように参加する……なんてことは強制しないわ。返事は今すぐには求めないから、明日にでもサインをちょうだいね」
「……ええ」
わたしの家は他の家と違って、財政に乏しい。それは仕方のないこと。生まれ持った家系は私自身が選べることではないのだから。
財団から多少の援助を頂いていても、私学に通い続けるのは困難であることは明白だった。他の生徒はわたしと違って、階級が上。どこに行くにも心配なんて必要のない人たちばかり。
わたしが通う私学は、そんな人たちばかりが集っている。そんな中に在って、わたし一人は蚊帳の外。財ある者と持たざる者……なんて残酷な現実なのだろう。
「それで、英里佳さんはこの冬に向かう、フィルストバーンへは参加しますの?」
「わ、わたしは……い、行きます」
「あら、無理強いはしないと言いましたわ。それとも、あの方が引率なさるから行くのかしらね?」
「そんなこと……ありません」
「可哀相な方ですね……憐れみの言葉でもって、代弁して差し上げますわ。あなたには道端で生えているのがお似合い。それでも、『孤独』や『寂しさ』を紛らわしたいなら迷惑をかけずに這いつくばるようにひっついてくればいい。それでは英里佳さん、現地でお会い出来たらよろしく願うわ」
わたしがこの学校で孤独なのは家が”そう”だからというのも関係しているけれど、それだけではなく、彼女たちの中にあって、1人だけ唯一温かな言葉を放ってくれた男性教師がわたしを救ってくれた。それがかえって、わたしを孤独にしているという皮肉さだった。
「英里佳さん、周りは気にする必要は無いですよ。あなたは家に関係なく堂々と振る舞えばいいのです」
「で、でも……」
彼の人差し指がわたしの唇に触れ、彼は言葉を続ける。
「”でも”は否定的な言葉ですよ。僕でよければあなたの寂しさを可能な限り、融かしてあげたい。そう思っています。ですから、もし、次の旅行に行くのであれば一緒に滑ったり、辺りを見て回りましょう」
そんな彼の言葉を受け止めて、わたしは学校主催のスイス旅行に行くはずだった。”でも”、安くない額をわたし一人に出す程裕福ではなかった。
結局、わたし一人だけが行くことが叶わなかった。そして彼への淡い想いも伝えられずに……
1人残された日本でもしんしんと雪が降って来た。一般住宅街に一人佇むわたしは一角にあって、寂し気に佇む”彼女”……エリカに気付いた。
あなたと同じ、わたしも英里佳。せめて、銀色に映えるこの世界で、『寂しさ』を共有させてね――




