届かない想い:エンドウトウコ
届かない想い:エンドウトウコ
久良木くんと田村くん……二人とも優しい。この二人に誘われたから私は今回の旅行に行く気になった。でも、本当は伝えたいから。伝えて、私の想いを彼に届けたい。だから、久良木くん……あなたを利用することになってごめんなさい。私が好きなのは彼だから……
「はぁはぁ……ごめんなさい、遅れて」
旅行当日なのに、まさかの寝坊。急いで走った。バスはもちろん来ていて、バス乗降口に待っていたのは久良木くんだった。彼は先にバスに乗り込んでいるのかな。そうだよね、私を待ってなんかいないよね。
「エンドウさん、田村はすでに乗っててそれで席は……」
「ん、いいよ。久良木くんの隣に座ってもいい?」
「ほ、本当? おぉ! や、やったー!」
すごい喜んでいるね。うん、久良木くんは分かりやすいなぁ。鈍い私でもあなたの気持ちに気付いてしまうよ。でも、でもね……私が好きな人は、あなたの友達の……
バスに乗り込んで、久良木くんの隣に座ったけれど、窓席ではなくあえて通路の席に座らせてもらった。だって、彼を見ていたいから。だけど、私の気持ちに気付くことなく彼は、一緒に付いてきた彼女たちと仲良さげにずっと話をしている。あぁ、いいなぁ……私もあんな風に隣で彼と笑い合えたらいいのに。
「……いいなぁ」
「えっ?」
「ううん……気にしないで」
隣に久良木くんがいるのに……どうしてあなたは私じゃない彼女たちと楽しそうに話をしているの。どうしてなの? 気付いていないの? そんなの、嫌だよ。私、あなたのこと……
海に着き、予約していたペンションに荷物を置くと、彼たちは一足先に砂浜へ駆けて行く。海で開放的になるのは彼らも同じだよね。決めた。チャンスが来たら、彼に私の気持ちを伝えよう。そうじゃなきゃ、来た意味はないもの。
そしてその機会はすぐに訪れた。みんな、海で遊びまくり。一休みも兼ねて、田村君と海の家へ買い出しにいくことに。きっと久良木くんが気を遣ってくれたんだ。ありがとう。私、彼に想いを伝えるわ。
「いやぁーすげー遊んだな! トウコも疲れたろ? あぁ、いいよ。俺が全部持ってやるからお前は、そのまま歩いていていいぜ」
やっぱり優しい……好き。久良木くんとは違う気持ちが彼に対して込み上がっている。この時間はきっと、久良木くんの思いやりが作ってくれた時間。伝えなきゃ……わたしの気持ちを。
「あの、田村く……」
「なぁ、トウコ。久良木の気持ちに気付いてんだろ? なら、あいつの為に付き合ってやれよ! あいつ、一途だぜ? ずっとトウコのことが好きで、でもあいつは気が強くない奴なんだ。でも、今回の旅行は俺も一緒に付いて来てやった。そしたら勇気が出たみたいでさ。だから、あいつともっと……」
「……どうして?」
「だから、あいつはお前のことが」
「違う! 私が好きなのは田村君、あなたなの! 久良木君のこと、何とも思っていないし思えない。どうして、気付いてくれないの? どうして……そんなことを言われるの」
「――え」
「ずっとずっと、あなたのことが好きなの。それなのにヒドイよ……気持ち、分かってなかったわけじゃないよね……気付いていたよね。それなのにどうしてそんなことが言えるの……好きなのに」
もういい。もう、ここにいても仕方がない……
「あっ、ま、待てってトウコ! お、俺はお前と久良木が似合うと思ってた。それだけなんだ……悪い。ごめん、ごめんな……」
「……さよなら」
バカみたい……そんなものなんだ。こんな叶わない想いなんてもう、いらない。きっと、最初からそうだったんだ。想いなんて届かない……私にはこれから永遠の悲しみが訪れるんだ。いいよ、もう……
花の名前、花言葉。まだまだたくさんあります。
オムニバスで書いてきた作品ですが、このタイトルは今回で終わります。
お読みいただきましてありがとうございました。
次に書く新作で花、花言葉を引き継いでオムニバスではないお話を発表します。




