燃え盛るスプレンデンス
燃え盛るスプレンデンス
「おい、薺。今日は早く帰って来いよ?」
「何で? って言うか、ソレやめてよ! 独占欲とかマジ、キモイんですけどー」
「あん? 妹の名前を呼んで何が悪いんだよ。ばっ、何言っちゃってくれてんだよ! 俺たちは兄妹だろうが。仲良くすることの何がいけないってんだ」
「はぁぁ? 杏平のソレはただの兄妹に対する気持ちじゃないじゃん! マジでやめて。外でも家でもガッコーでも距離が近すぎてウザすぎるんだっての!」
わたしの兄、杏平は正真正銘実の兄。そしてわたしは残念なことに、実の妹。世間の兄弟がどれくらい仲がいいのかなんて分からない。だけど、わたしの兄は溺愛しすぎて本当にキモイ。とてもキモイ。
家族構成は両親とわたしと杏平の4人。お母さんに聞いた話では、わたしが生まれた時から兄は恐ろしいほどにわたしを可愛がり、溺愛をしていたらしい。はっきり言って、迷惑過ぎる生き物だ。
「薺、最近帰り遅くねえ? まさか、まさかと思うが男とか出来てねえよな? ソイツ、家に連れてこいや~! お兄ちゃんが説教してやんよ!」
「そんなのいないし。てか、いても教える義理も意味もない。たかだか血が繋がっているだけの人にあれこれ教える必要なんてありませんから」
「こ、こここ……」
「この野郎とでも言うの?」
「小悪魔か!? おいおい、可愛すぎんぞマジで! なずなは俺が守る!」
「はぁ……生まれ変わりたい」
「おぉ! いいな、それ」
そんな感じでウザい兄は彼女を作らずに妹のわたしにベッタリしている。両親はこの光景、言動を微笑ましく見ている。これのどこが微笑ましい光景に見えるのか、わたしは何度も眼科への受診を勧めている。
こんなにウザいのを極めている兄でも、ほんのミクロ程度の頼りがいはあってそれだけは許している。
わたしは雷が……ではなく、強風……風の音がとてつもなく怖い。時には風の音が人の声にも聞こえて来る時があって、とてもじゃないけれど布団から出ることが出来ない日があった。そんな時に兄はずっと傍にいて、ただ黙って傍にいてくれる時があった。
「きゃっ……!!!」
「なずな、俺がずっと傍にいてやる。怖くなくなるまで、ずっとだ」
「……」
布団のカバーから時折、顔を出して傍にいる兄を見ていると、ふと思うことがあって……本当に、黙っていればいいお兄ちゃんなのに、と。大嫌いでもないけど、好きでも無い。
「……ありがと」
「おおぉぉ!! なずなから愛を受けたぜ! 愛してるぜ~~!」
「あ、家族愛だから。異性とか、男として全く無いから」
杏平が兄でわたしはとても不運だ。それでも、本当にホンの数ミクロ……同じ家族で良かった。そう思う時が年に一度くらいは発生するかもしれない。燃える思いはウザい位にわたしの心を冷ましていく。
わたしに彼氏なんて出来る、許される日が来るのだろうか。いつしか燃え盛る思いを消火してくれる人が現れてくれるといいな。そう思いながら、わたしは毎日を過ごしている――




