イブニング・プリムローズ
イブニング・プリムローズ-待宵草-
周りを見ればどこもかしこも男女の組み合わせばかり。それもそのはずで、ここは彼と彼女たちが楽しみに訪れているランド。中にはお一人様も結構いるし、家族連れだって多い。わたしは何も好きでお一人様じゃない。一緒に行く人がいないからであって1人が好きなわけじゃ無い……
それもこれもわたしが意地っ張りだからなのだけど。
「金を出せ」
「なに? なんだ、相葉か。それでその、おもちゃは何なの? 水でも詰めてるとか?」
「茜だけなんよ。せんせーのお別れ会カンパの金出してないのは」
「あーうん、そだね。忘れてたって言うか、ウチ、財政厳しいんよね」
「そんな言い訳はムダだ! 俺が茜の分、払っといてるから出世払い……いや、後でおごれ」
「相葉が払ったんでしょ? だったら、急ぎじゃないじゃん。物騒な鉄砲おもちゃをいい加減しまえって」
こいつ、相葉はわたしの悪友でもあり、一度は付き合ったこともある男。別れたからと言って、険悪になるわけでもなし、同じクラスだからってのもあって気兼ねの無い関係を保っている。
よりを戻す……なんてことを考えたことは多分、無い。コイツと一緒に遊んだりくだらないことを話したり、課題を貸し借りしたり、そういう関係だからまた恋人になるなんてことはないだろうな……なんて思って過ごしていた毎日だった。
「やー俺さ、昨日告られたんよ。びっくりした、マジで!」
「へー……」
相葉は実は女の子には気を遣い、優しくてそして、一緒にいると気が楽になる奴。だからそういう所を見逃さない女子たちには人気の男。それを何故かわたしに自慢して来るけど、飽きたこともあっていつもかわしている。コイツがコレを話すときは大体、構ってちゃんになってる時だからわたしはスマホの動画に集中することにした。
「って、おい、聞けよ」
「……だから?」
「もちろん、泣く泣く断ったんだぜ?」
「どうしていつもいちいち報告してくんの? よりでも戻したい?」
言葉に出して言うことじゃないけど、コイツの真意がイマイチ掴めなくてとうとう言ってしまった。
「悪ぃかよ」
「あー……うん、考えとく」
「マジかよ」
考えとく。もちろんこれはそのままの意味で戻すかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だから、この言葉自体に期待されても正直、困る。けど、相葉はその辺不器用な男だからその意味をきっと……
「あ、あのさ、姉ちゃんからタダ券もらったんだ。茜さえよければランド行かねえ?」
「ランド? でもあそこって曖昧な関係のウチラが行って楽しんでいいとこ?」
「関係ないだろ。遊びに行くだけだし、今度の日曜にそこに行っててくれ。この券、一枚渡しとくから」
「ちょ、ちょっと、行くって言ってないんだけど」
勢いで誘ったのが恥ずかしくなったのか、相葉はさっさと廊下に出て行ってしまった。いや、待ち合わせ場所とか時間とか決めてないじゃん……マジで、どうすんのコレ――
――そして、わたし一人だけがランドに来ている。前日まで奴に対して「わたしは行かない」なんて、何となくの反抗心を見せて言いまくった結果がコレだった。
そもそも待ち合わせとか時間とか、決めなければ再会出来そうにない位に人が来ている場所。1人で来たって楽しめる。そう思ってとにかく乗りまくって楽しんだ。
さすがに夕方になるまで遊んでいると、日曜ということもあってか人はまばらになってきて、薄暗い中でも顔は見えていてそして、明らかにテンションのおかしい奴がわたしに向かって来ていた。
「ふーようやく会えた。探しまくった! そういや連絡とか何にもしてなかったなと思って画面見てたけど、茜が来てるかなんて分からねえし聞き辛かった」
わたし一人だけ楽しんでた中、相葉はわたしを探し回っていたということで合っているのだろうか。きちんと約束したわけでもないし、行くとも言ってないのにコイツは……
「どうしてここにいるって信じたの? 来るなんてことも分からないのにどうして……」
「何となく、だな。昼間はさすがに会えないのは分かってたけど、夕方まで待てばきっと茜に会えるって思ってた。お前、意地っ張りだから。行かないって言っときながら行く奴だしな」
夕方を待って、恋は咲き始める――か。
「いい気にならないでよ? たまたまあんたを見かけただけで見つからなかったら放置してたんだからね」
「てか、疲れたマジで」
「じゃあ帰ろうかな」
「いや、待って。暗くなるけど遊ぼうぜ? 茜と一緒に遊びたいんだよ俺は!」
「分かったから」
「お! うし、行くか~ほれ」
「いい、1人で歩く」
「可愛くねえな~でも、好きだけど」
まだ曖昧な関係だけど、でも、コイツと離れ離れになるなんてことはないかな。そうしてわたしは言葉に出すことはやめて、無言でコイツの手を繋ぎわたしの心を手繋ぎに隠した――