ムーンダスト・サプライズ
わたしの会社は忙しい。それでも、彼との週末はいちゃいちゃしたい。むしろそれを心待ちにしながら仕事を頑張っている。週末は彼との素晴らしいひとときを過ごせる唯一の幸せ……のはずが――
「花梨ごめんっ!! 俺、人手がどうしても足りなくて土曜日に仕事駆り出されることになった……」
「週末の休み、無くなったの?」
「ご、ごめん。俺を、俺をぶってくれ! ずっといつもいられるなんて嘘言ってホントにぶっていいから」
土下座をしながらすごく泣き出し、ぶたれるのを覚悟でわたしに許しを請う彼の姿は、怒る気持ちを消して許してあげる。そんな言葉しか出なかった。
「お仕事だもん……仕方ないよ。わたしだってそうなるかもしれないし、日曜だけでも一緒にお家でいようよ。わたし、至と一緒にいれるなら短い時間でも嬉しいよ」
そんなことを言いながらも、わたしも日曜に出勤になってしまった。彼が土曜日、わたしが日曜日。ふたりで会える週末は一週間空くことになるだなんてさすがに想像していなかった。
会えないけど、好きだからちょっとの空白期間なんて気にしなかった。そして、次の週末のことを彼に連絡すると、帰って来た答えは予想よりも違っていて……
「ごめんっっ! し、仕事が繁忙期に入って……だから、ごめん!!」
「んーん、いーよ。仕事だもの」
気付いたらずっと彼と週末に会うことが当たり前ってなっていたくらい、楽しみにしていた自分がいた。会いたい……会いたいよ。たった一週間が気付けば一カ月、土日に会うことが簡単じゃなくなっていた。
それもあってか、わたしは仕事にイマイチ乗れなくなって、ボーっとしたりして怒られたりさんざんだった。忙しくてもやっぱり、会いたい。わたしは彼の部屋へ会いに行く! そう決めた時、通知の知らせが届いた。
「待たせてしまってごめん、花梨の職場の外で待ってるから。――待ってるから」
仕事を終えて薄暗い外。彼はずっとわたしを待っていた。わたしの顔を見た途端、落ち着かない様子を見せながら、はにかんだ笑顔を見せた。
「やぁ、ひ、久しぶり、花梨」
「ど、ども……」
「じゃ、今から来る?」
「ん、行く」
わたしの会社から彼の住む部屋までは徒歩で行ける距離。久しぶりに手を繋いで、彼の部屋へたどり着く。ドアを開けて中に入る前に、彼は少しその場で待ってて欲しいと言い出した。
一体何だろ? いつもこんなことなかったのに……思っているところで、彼がドアを開けると――
「い、いらっしゃい、花梨」
「え、うそ、何コレ……青い花?」
らしくないと言えばらしくないけど、彼の部屋の玄関には青紫色のお花が飾られていて、わたしを出迎えてくれた。ちょっとしたガーデニングのような空間がわたしを迎えてくれた。
「や、実はさ、コレを作りたくてずっと会えずにいたっていうか……」
「忙しかったのに、こんな手の込んだコトもしてくれていたなんて……至、すっごい嬉しい、好き」
「青いカーネーションを揃えるのも時間かかっちゃって……喜んでもらえて良かった。俺、俺も花梨が好きだよ」
仕事も忙しかったうえに、サプライズも用意していたなんて思わなかった。この嬉しさは、幸福を感じずにはいられなかった。永遠の幸福を、至とずっと感じて行きたい。
この日、彼とわたしは想いを確かめ合うように重ね合った。この日から、彼とわたしは必ず週末に会うように調整をするようになった。
「今度の土曜日、どこか外に行かないか?」
「ううん、わたし、至の部屋で過ごしたいの。ゆっくり、映画でも見ようよ。あなたの家でふたりで過ごせるだけで幸せだから」




