真実のアルテミス
真実のアルテミス
「愛している……少し愛している……とっても愛している……全然愛していない」
日本語も怪しい私が学校で選んだ語学講義をフランス語にしたのは、表現がストレートだから。英語もストレートだけど、何となく気分を変えてみたくなった。それだけ。
私には一応、付き合ってる奴がいる。けど、奴は恥ずかしいのかシャイなのか、今まで一度も『好き』だなんて言葉を口に出したことは無い。それでも、嫌いだったらずっと一緒にいることもないわけで。
「あのさ~今度の休講の時、暇じゃん? どっか行かない?」
「暇だけど決めつけ良くない。椛、どっかに行きたいの?」
「うん。だって、せっかくの休講なんだよ? そのチャンスを使わなきゃソンするじゃん」
「チャンス、か。んー、分かった。お前には負けるよ。だからこそ……」
「ん~? 何か言った?」
「何も」
なんか上手いことはぐらかすんだよね。でも、嫌いになんてならないし、好きを失くすことなんてないけどね。講義を終えて昼になる。奴と付き合っていると言っても、昼も一緒に食べるなんてことはあまりなくて、その辺はベタベタしてない。お互いに自制してるというか、そういう所はけじめつけてる。
「野村~メシ行こうぜ!」
「うん、オッケ!」
おんなじ学校にいても、仲のいい友達は男でもいるしご飯も普通に食べに行く。そこに彼氏が必ずいるかと言われるとそうじゃない。そういう意味じゃドライな関係かもしれない。それもあってか、私に彼氏がいることを知っている人は少ない。まぁ、私とご飯食べに行くくらいで意識してくる男友達なんていないでしょ。
何てことを繰り返しながら、全休講の日が近付いて来た。何にも意識しないまま、廊下を歩いていたらいつも昼にご飯食べに行ってる男友達の一人が、何だか言い辛そうにして私に近付き声をかけて来た。
「ん? どうしたの? ってか、ごめん、今日は用があるから駄目なんだよね~」
「あ、あのさ、俺……野村のことが、好きっていうかいいなって思ってるんだ。俺と付き合わないか? いつも一緒にいて気になってた」
「そうなんだ……。でもごめん、無理かな。友達だと思ってるし」
「な、何で無理なんだよ!」
返事の仕方をミスってしまったかなって思ったくらい、この人はグイグイと私の近くに詰め寄って来る。しまったな~何か上手く断れなかったのかな? どうしよ。
「悪い、待たせた椛」
詰め寄るその人を止めるように、私の前に立って私を守る彼。あれ? こんなタイプだったっけ。
「あのさ、俺、コイツ……もみじのこと、愛してるから。だから、諦めてくれないか?」
「は? 野村に男がいたのかよ……何だよ、勘違いとかさせないで欲しかったな。俺が勝手に気になってただけだけど、そうかよ。いや、じゃあいいや……もういい」
んー好きと好意のボーダーラインは曖昧だなぁ。彼がいることをあんまり披露したくなかったけど、するべきてか、そういうことも必要なのか~
「大丈夫か? と言うか、どこか行くんだろ?」
「うん、いやーてかさ、好きって言葉通り越して愛してるってすごいね。びっくりしちゃった」
「忘れてイイから」
「ルヴェリターブルアムール……かぁ。うん、いいね。あなたらしいっていうか」
「ん? 何語?」
「フランス語だよ。意味は『真実の愛』ね」
「ふーん……」
とりあえずどこに行くか決めていなかったけど、前を歩く彼は後ろにいる私に手を差し出した。これも普段はやっていなかったことだった。
「……ん」
行き先は歩きながら決めればいいよね。差し出された彼の手をしっかりと繋いで、歩き始めた――




