届かない想い:男子サイド
届かない想い:男子サイド
「うし、じゃあみんな揃ったよな? 乗り込もうぜ」
「待った、エンドウさんがまだバス停に来てない」
「あぁ、そういやそうだな。待つしかないな」
他の女子はすでに来ていて、待っている。
「よし、エンドウさんのことは久良木に任せた! 俺と他の女子は先に座っとく」
「分かった」
今日は前々から約束してた海旅行。男女合わせて5人くらいで行く気楽なバス旅行。俺は密かに楽しみにしていた。片思いをしていたエンドウさんと一緒に行けることをずっと、心待ちにしていた。俺は、いや……俺だけじゃないはずだ。好きな人の前に出ると途端に口下手になってしまうのは。でも、この小旅行で俺は想いを伝えて、彼女と……
「ご、ごめんなさい。遅れてしまって」
「ま、待ってないから。他の奴は席に着いてるけど俺と隣で、へ、平気?」
「うん、大丈夫。ううん、久良木君が隣で良かった」
「あっ、う、うん……じゃ、じゃあ乗ろうか。荷物、持つから」
「ありがと」
ああ、くそっ可愛いな。なのに、俺はどうしてこうも上手く言えないんだよ。田村みたく気楽に話しかけられれば俺だって、彼女ともっとうまく……
「久良木くん、そろそろ出発するみたい。わたし、通路側でいいから久良木くんは窓側に座って」
「お、ありがと。いいの?」
「うん、ここならみんなの様子も見られると思うし」
「お、おう……分かった。サンキュな」
一番後ろの席には先に乗り込んだ田村と女子ふたりが陣取っていて、奴の軽快なトークで盛り上がっているみたいだった。それをエンドウさんは通路側の席から後ろをチラチラと気にしながら見ているみたいだ。
「田村の奴がうるさいでしょ? ごめん、なんか」
「ううん、平気。久良木くんこそ、わたしが隣でごめんなさい。静かすぎて嫌でしょ?」
「そ、そんなことない! あるわけない。俺はむしろ……」
「……え」
「あ、いや、何でもない……よ」
「……いいなぁ」
余程後ろの席の田村たちがうるさいのが気になるのか、それとも賑やかだから混ざりたいのか、彼女がボソっと呟いた羨まし気な一言の意味を、俺は理解出来なかった。
目的地まではすぐで、海に着くとすぐに俺と田村は行動を起こす。女子たちは海の近くのペンションに荷物を置いてから合流し、俺たちは場所を確保して遊び道具を準備する。
「お前、告るの?」
ふと、田村が俺に聞いてきた。コイツは俺が誰を気になり、好きなのか分かっている。だが、俺はコイツに素直には答えない。
「誰に?」
「すっとぼけんなよ。俺が一言、助けてやろうか?」
「余計な事するな。俺が……俺だって、言える」
「ほー? お前ってばアイツの前だとこんなに口が滑らねえだろうに。まぁ、期待しとくよ」
何に期待してるって言うんだ。俺は……彼女のことをずっと……
女子たちとも合流して、俺たちは泳ぎまくり、砂の上で遊びまくった。遊んでる時にそんなことはもちろん、言えるはずも無く俺は黙って時間が過ぎるのを待った。そして――
「久良木、何か海の家で買って来いよ。エンドウさんも連れていけ。ってか、俺らの分はお前一人じゃ持てないだろ? な?」
「……エンドウさん、いい、かな?」
「うん」
俺とエンドウさんは飲み物や軽めの食い物を買って、田村たちの所へ戻ろうとした。俺はこの時をチャンスと思って、話しかけようとした。
「あ、あのさ、エン……」
「田村君ってさ、あのふたりのどちらかと付き合ってたりするのかな?」
「え?」
「わたしさ、彼のコト……ずっと気になっててそれで、今回の旅行に来たの」
エンドウさん……あいつのことが好きなのか。俺じゃダメなのか? 俺は……
「俺も、今回の旅行は好きな人に告白する為に来たんだ」
「同じ、だね。それって、あのふたりの……?」
「エンドウさん。お、俺、君のことが、好きなんだ。俺じゃ、駄目……かな?」
「……そ、そうなんだ」
「ずっと言いたくて、でも……上手く言えずにいた。だから、俺も今回の旅行で……」
「ご、ごめんなさい。わたし、久良木くんのこと優しくて好き。だけど、田村君の好きとは違う……から。だから……」
「いやっ、まぁ、うん。気にしないでいいから。気持ち伝えたかっただけだし、エンドウさんのこと応援するから」
「う、ん……ごめんね。でも、ありがと」
ま、そうだなとはバスの中で感じてた。そんなもんだよな俺って。はぁ……こうなったら、エンドウさんのことを応援ってか、あいつと上手く行くように見守るしかねえな。はぁぁぁ……届かなかったな……




