歪んだ恋心
あなたの悲しんでいる顔が見たい……
彼はずっと試験に落ちまくっている。それは、運転免許の試験。決して頭が悪いわけでもなく、態度も悪いわけではないのに。
「ううーちくしょう……どうして俺はこんなにも要領がよくないんだよ」
「お、落ち込まないで……次はきっと受かるわ! 応援してるから」
本当は嘘。ずっとずっと受からなければいいって思ってる。私の名は竜胆サエ。お家の庭には、苗字と同じ花を植えていて、私はこの花の青と紫を好んで育ててる。
彼とは数年前に知り合って、交際している。私はいたって普通の女性。でも、人には言えないことがある。それは、好きになった人の悲しむ顔や落ち込む姿を見ると、ゾクゾクすることだ。
だから、庭に植えている竜胆の花を青や紫にしている。この色を見るたびに、彼の青ざめた表情や血の気の無い落胆した顔を見ると興奮すら覚えるからだ。
別に私自身は呪いや、恨みと言ったことを表立って行動しているわけでない。でも、今の彼と付き合うようになってから私は本性に気付いた。好きになった人の悲しむ顔を見るのが大好きだと……
「はぁ……いつになったら学科試験に受かるんだろうな……」
「そうくよくよしないで、ね? 私がずっと傍にいてあげるから。だからあなたのその顔を良く、見せて欲しいわ……」
「そ、そうか。お前が彼女で良かったよ。これからも傍にいて俺を応援してくれよ」
「ふふっ……勿論よ。あなたの傍で、応援するわ……」
「お、おぅ! やっぱ彼女がいると元気が出るな~俺、また受け続けるよ。そして受かったら車に乗せてやるからさ!」
「そうね……車……その車に乗ることが出来たら嬉しい」
運もない、ツイてない……こんな男には簡単に出会えない。ふふふ……最高に大好き……落ち続けて、悲しんで、悲しみに明け暮れるその姿を、私はずっと眺めてあげるわ……あなたが悲しむ顔が好きだから――