旅立つ君に、Dandelion
旅立つ君に、Dandelion
――春。
人は出会いと別れを繰り返す。別れとは悲しい時もあるけれど、そうとも限らないコトバの意味でもある。
わたしは春に出会った彼と春に別れることが決まっている。これは恋人としての別れではなく、旅立つ別れ。
「麻子は将来どうすんの? 家を継ぐか? それとも島を出るか」
「どうだろうね。ウチ、一人娘で大事にされてるからさー」
「寂しい気持ちになるかもしれないけど、先に言っとく。オレ、春になったら島を出る。出て、外見て来る!」
「へぇ~? 初めて聞いた。小さな島暮らしに飽きた?」
「飽きてない。でもな、いつかは出て行くもんだしそれが早いか遅いかの違いってことなだけ」
「夢あんの?」
「お前なー俺、麻子と出会った時に語ったぞ。覚えてないのか?」
「待った。今、思い出すから」
あ、アレだ。たぶん、アレのこと。
「公英の夢はアレだ! 写真家! 合ってる?」
「それだ。勿体無いって思うわけよ。俺らの生まれ育った島は海と岩に囲まれてる。そこに行き交う定期便の船は地元の俺らと、たまに島を訪れる観光客位しか運んでこないだろ。つまり、こんだけ綺麗な場所を知ってる人間は限られてるわけだ」
「あぁ、そりゃそうだね」
「それを俺は腕を磨いて、写真におさめて魅力を外に見てもらいたいって思ってる。だから、島を出て行く」
「そういう夢ならアリかもな~」
「お前、その男っぽさ何とかならないのか? 漁師の娘だからってそれは違うだろうよ」
「いやーそう言われてもな。誰に言われるでもなく生きてるわけで。公英が直せってんなら努力するかもしれない」
「じゃあ、直せ。俺が、ちゃんとプロの写真家になってこの島に帰って来た時に、麻子を俺の写真におさめたい。この島の魅力と共にな。言葉遣いは写真から見て取れるかって言うと、雰囲気で分かるもんだし」
「おしとやかに女性らしく直せと?」
「ああ、そうだ。そうじゃねえと、貰い手が増えないぞ」
「ヨメのか? それに関しては絶望的すぎだな。島に若い男いないしな。魚獲りながら女磨けってか? キツイ事言ってくれるよ」
「俺は絶対、写真家になる。なって、戻って来る。だから、その時お前も女性らしくなってて欲しい。それ、俺なりのプロポーズな」
「うわ、マジで? 写真家と漁師の女が結婚か? それ面白いな。分かった、なら公英と別れてから磨いとく。約束する」
人口の少ない島。春になると出て行く人らがいる。そこに長く住んでいる住人ではなく、余所から嫁いできた夫婦との間に出来た子供らが成長と共に旅立とうとして出て行く。公英はその子供であり、元々の出身者と言えるかは微妙だ。春に出会い、春に別れた。
数年が経ち、私はあいつが言い残したことを少しずつ実行して、女性らしさを出せるようになった。島の男とくっついた島外からの女性に教わりながら、少しずつ、少しずつ……
陽だまりが暖かな春、定期船からは多くの観光客が降り立った。これは、とある男がこの島を魅力ある紹介と共に、風景の美しさをファインダーと呼ばれる装置を使って綺麗におさめたのが決め手だったらしい。
彼がいつ島に戻って来るのかなんて分からないことだけど、彼がこの島の魅力と言う名の種子を飛ばして外へ飛ばしてくれていることは私にも、島のみんなにとっても誇りに思えることだった。
私はあなたの帰りをずっと待つよ。
だって、蒲公英は種子を飛ばしてまた同じ所へ帰って来るのだから――




