情熱のガイラルディア
情熱のガイラルディア
「あぁ……いいなぁ。格好いいな~会いたいよ~」
どうすれば直接会えるんだろう。私みたいな一般人とは話なんてしてくれないよね……でも、会えたらいいなぁ。
テレビとスマホの前でいつも彼だけを目で追う私。彼は誰もが知る人気俳優でイケメン。芝居は上手いし、バラエティに出てもきちんと笑いは取れてるし、何よりスタイルがいい! 全てがよし!
私自身は彼氏なんていない。きっと、彼も彼女はいないはず。ううん、人気の俳優さんにいてたまるものか。いることが分かった時点で失恋が確定するし、分からない時点ではまだ望みが持てるはずだから。
「あのさ~どうすれば彼に会えると思う?」
わたしが聞く相手……それは舞台役者の友達。舞台とテレビでは繋がりがあまりないって聞いてるけど、それでも、もしかしたらなんて浅はかな考えで知恵を借りることにしてみた。
「彼ってのは今人気の、あの役者のことだよな? それを俺に聞くの? 俺は舞台側の人間だぜ……聞く相手間違ってるぞ。桔梗はエキストラ登録もしてないんだろ? まぁ、だからといってピンポイントで会えるわけでもないし、口は聞いちゃいけないけど。それでどうやってテレビに出てる人気役者と出会おうとしてんの?」
「だからそれをあなたに聞きたくて来たわけで……なんか、ない?」
「うーーーん……あ! あったあった。桔梗にオススメのがあるぞ。それやれば直接会えるかもしれないし、日常会話くらいなら出来るかもしれないぜ」
「えっ! マジで!! そ、それって何?」
※ ※ ※
「はい、わたしは人と接するのが好きなんです!」
で、運よく受かったバイトがコンビニのバイト。それもその辺りのコンビニじゃなくてテレビ局の中のコンビニ。ここなら芸能人に会いたい放題! 会いたくなくても会える。収録か何かがあればきっと彼も店に来てくれるよね。
「……桔梗さん、なに理由でバイトしに来たの?」
「えーと、好きな俳優さんに会えたらいいなぁ……なんて」
「あぁ、定番な理由か。そう言う理由で入って来る人は少なくないんだけど、続かないんだよね~。どうしてか分かる?」
「さ、さぁ……」
「好きなタレントさんに確かに会える。会って、お釣りを渡すときに手を触れる。そうするとそこで目的は達成されてさっさとバイトやめてく。そんな感じ」
「そうなんですね。わたしはそんなすぐには辞めないです……会えるとも限りませんし」
こうしてちょっとの空き時間に立ち話をしていても、店内にはどこかで見たような芸人や、キャスターの人が普通にパンやデザートを買いに来てるし、長く働いてるベテラン店員さんとは雑談までしてるのを見ると、騒ぐことなんてなくなるんだろうな、なんて思ってしまった。
そしてとうとう待ち望んでいた彼がお店に来て、私の立つレジに来た瞬間が訪れた――
おぉぉぉ……手、お釣りの手が触れた。しかも笑顔を見せてくれた! こ、これはやみつきになりそう。会話なんてものはもちろん無かったけど、触れ合うことが出来た。こ、これはもっと続けてその内、仲良くなれればいいなぁ。
目的の彼と出会えたわたし。それでも、お店はすぐには辞めなかった。少なくともまた来てくれるかもしれないし、近付けるチャンスでもあるのだから。
「桔梗さん、知ってる? あの人気俳優さんに彼女いるっぽいよ?」
「そっ、そ、そうなんですね……あははは~」
「あれ、確か好きなんじゃなかったっけ? それにしては明るいけど」
「好きですよ。そして失恋しました。それでも明るくしないとお店に立てないじゃないですか~」
「確かに。ま、まぁ誤報かもしれないし、また客として来たら笑顔を見せて接客してね」
「もちろんですよ~」
真相はどうか知らないけれど、失恋した。それでも、明るく生きていこう! そう思いながらレジに立っていればいいことが起きるかもしれない。だから、今日も笑顔で『いらっしゃいませー』!




