紅い瞳のデイジー
紅い瞳のデイジー
マーガレットの花びらを一枚、また一枚と散らしながら、わたしヒナギクは大好きな彼と今後も上手く付き合っていけるかを占っていた。全ての花びらを散らす前に、彼はわたしの前に姿を見せて声をかけて来た。答えが出る前に彼が来た。だから、その答えを彼に聞いてみた。
「好き、嫌い、好き……嫌い……どっち?」
「どっちと言われてもな……答えるもんなのか、それ」
「決まってる答えならすぐに出ることじゃないの? だから答えてよ」
「好きに決まってるだろ。言わせんなよこんな恥ずかしいこと」
彼は大学4年生で、わたしは年上の社会人。すでに仕事をしている身で、年下で大学生の彼と付き合っている。もうすぐ卒業……だけど、就職内定をもらっているにも関わらず、彼は進む路を決めかねていた。
「何を迷っているの? いいじゃない、もう決まっているんだから」
「分かるけどさ。分かるけど、何か嫌なんだよ……ヒナは分からないかもだけど、普通に当たり前に決まった所に進むってことが何か、嫌なんだ」
「もどかしいってこと?」
彼は視線を下に向けながら頷いた。何で……? 何を考えているの? 何が不満で、不安に思うことがあると言うの?
「俺はもっと――」
言いかけたところで、彼は口を噤んだ。何を言おうとしていたの? 彼は言葉を探しながら自分の決めた道を新たに探しているかのような素振りを見せている。
年末になり迷いを断ち切ったのか、彼はわたしへの告白と彼自身の告白を打ち明けた――
「おれ、ヒナと一緒になりたい。好きだ。好きなんだ!」
「――わたしも、好き」
「ヒナのこと、ずっと想ってる。だから、ごめん――俺、就職はしない。しないで、あっちの大学へ行ってみたいんだ」
なに、それ……? 内定を蹴ってまで、外国の大学に行くって意味? どうしてそんな……そんなこと。
「その上でここで、この場で誓いを立てるよ。あっちの課程を終えて、こっちの仕事が決まってから俺は、ヒナと結婚したいんだ」
「それまで待ってろ……そういうことなの? そんな、そんなの……でも、それがあなたの決めた道ならわたし、何も言えない。言えないよ……」
「ヒナは他に好きな人が出来るかもしれない。それでも俺は、帰ってきたらお前と一緒になる。なりたいんだ。勝手なこと、言ってる。けど、行かせてくれないか?」
「……分からないよ」
考えに考え抜いた彼の進む道。その答えをわたしは知らない。答えられるはずがない。それでも彼が望むのは幸せな結末。
「……ヒナ」
「あなたがそれを望むなら……いいよ」
瞳に飛び込む夜明けの陽射し。希望を口にした彼の全てを愛おしく眩しく見えたわたしは、無意識な笑顔を彼に向けていた――




