耐える愛
耐える程に愛しい
夏を感じさせる季節が近づいて来ている。ワタシはしばらくの間、地元の大学を休学していた。好きだったヒトに振られたからだ。休学の届けを出した以上、地元で自由に出歩くことはしたくなかった。
この機会に、ワタシは日本の大学に行ってみたいと思った。貯めていたお金を日本旅行に使って、日本の大学で学んでみたい。そう思ったのだ。ワタシはかねてより、日本のサムライに興味があった。
日本語はそこから学んだ。これなら、日本男児もワタシに夢中になるだろう。そう信じて、出発した。
とある大学――
2週間限定で体験入学をさせてもらい、すでに他の学生と同じように講義を受けている。しかし、理解出来ないことが多すぎる。ナゼ、ワタシに誰も声をかけて来ないのか? 異国人など珍しくもなかろう。ここはワタシから行かねばならぬようだ。
ワタシは1人の男子に的を絞り、講義を受けていたカレに声をかけた。
「そこの者、名は何と申す? ワタシはアルビナじゃ」
「はい? あ、アルビナさん……ですか? えっと、何ですか?」
「ウム。ワタシの友となってくれぬか?」
「へ? な、何で俺ですか?」
「惚れたからじゃ! 答えを聞こう。さぁ……」
「よくわかんないんすけど、茶くらいなら付き合いますよ。暇だし」
「おぉ! では、私とカモミールティでも飲もうではないか!」
「カモミール? ず、ずいぶんシャレてますね……飲んだトキないな」
「カモミールを知らぬのか? 我が祖国ロシアの花ぞ」
「ロシアから来たんですね~あ、俺はミツルっす! じゃ、行きますか、アルビナさん」
ミツル……しかと覚えたぞ。あわよくばこの者と燃え滾る様な恋をしてみたいものじゃな。
「で、何で俺なんすか? 他にもいっぱい男いますよ」
「勘じゃ」
「勘ですか……てか、その変な言葉はなんすか?」
「貴様はジャパニーズだろう? ナゼ侍言葉を知らぬのか」
「い、いや、普通は使わないんで。ま、何か面白いっすけど」
そう言うとミツルは笑顔を見せた。これは脈アリという奴なのか?
「して、ミツル、ワタシと付き合ってはくれないか?」
「急っすね! いや、無理っす!! ロシアに帰るんすよね?」
「ウム。長くは居れぬのでな……それでは駄目なのか? 善は急げと言うではないか」
「何か意味が違うような……あのですね、俺、すでにいるんすよ彼女。なので、俺では無理っす」
「な、なんと! せっかくこうして触れ合いを持てたというに……最初から負けていたというのか」
くっ……すでに勝負は決していたということか。じゃが、ワタシはその逆境を乗り越えてカレシを得てみたい。そして祖国へ来てほしいものだ。
「いやーカモミールって案外、美味しいもんなんすね。彼女にも勧めてみます! じゃ、俺は行きますね」
「あ、あぁ……さらばじゃ、ミツル」
嗚呼……日本男児よ。ワタシに一つの光を魅せてくれたナ。よかろう……かくなる上は、祖国を脱して日本で耐え忍び、愛しの男を得て見せようぞ……サムライ――我が愛しの男に出逢うその日まで