オトギリソウ
ひとつ、ふたつ……そして、丑三つ時。彼のことを思って、私は敵意を募らせる――
「何だ? お前、まだ俺のコトが諦められないのか? 往生際が悪いし、ちょっとしつこすぎねえか? 俺はそういう面倒な女とは付き合えねえな。だから、帰れよ、うぜえし」
「……ふざけないで。どうしてあなたにそんなことを言われなければならないの? あなたにそんなこと、言う権利も資格もないじゃない! 3つも4つも、他に心を持っておいてよくもそんな、そんなこと言えるよね」
「はぁ? んなもん、知らねえし。俺は悪くない。悪いのは他の女よりも魅力の無い黒木だろ? 俺のせいにすんなよな。とにかく、もう会わねえよ。じゃあな」
……許さない。私以外に3つ以上の好きを他に置くなんて……私は彼を……あの男を必ず、呪ってやる――
あの男は私だけを愛していると大勢の人のいる前で宣言してくれた。照れる私を抱きしめながら、深く長く、口づけを落とし……何度も求めに応じた。
そうして、私は彼の言葉と態度と行動の全てに応え、結婚をすることが決まったと喜んでいた。それなのに、裏切られた……
私の知らぬ間、あいつは他に心を置いて行く。一つだけではなく、2つも3つも……どんどんどん……心が離れ、あいつを見る度私の心は荒んでいく――こんなになるまで気付かれることなく、心の縛りはキツクなる……
こんなになる前に、心を想いを……想う気持ちの鎖を断ち切って欲しかった――
「……ねぇ……今、あなたは楽しい? 楽しいよね――そうだよね……」
「モテ期が来てるってやつだからな。ここまで複数の女に好かれると悪い気もしないし、ちょっと心を浮つかせても文句言われることもねえだろ」
「ふふ……そうでしょうね――でもね、それが全ていなくなったとしたら、あなたはどうする?」
「あん? お伽噺みたいなこと言ってんな。そうだな、仮にそんなことが起きても今いる女どもがいなくなっても、次々に新しい奴が来るから困らねえな」
「そう――」
「そろそろ眠いし寝る。お前も早く寝ろよ? おやすみ」
お休みなさい……あなたが他へ目を向けないように――ひとつ、ふたつ、みっつ……あなたを想う想いの”花”たちが敵意を向けてくれるように、あなたの浮きの心、そして、私とのコトを全て曝け出してあげる。そうしてあなたの元へ向かう”花”たち全てを消してあげる――
そうすればあなたしか残らない……あなたにはワタシしかいないもの――
あなたを怨む想いは誰にも渡さない――あなたへの敵意はワタシダケノモノ……




