希のカサブランカ
「おい、マリー! マリーゴールドは、いるか? いたら返事をしろ!」
「マリーは来てませーん! 男のとこだと思いまーす」
「またか! 全く、あんなにやる気の感じられない生徒は初めてだ。男に会いに来てるのか、学業を習いに来てるのかどっちなんだ。いくら家柄が良くても俺は評価せんぞ!」
「今回で何人目の男?」
「さぁね? またすぐフラれるんじゃない?」
「ねぇ~いつなら会えるのぉ? あたし、あなたとならしたいんだけど~」
「お、オレがマリーと一緒にいるのは、そういうことばかり考えてるんじゃない。そうじゃなくて、もっと……純粋に話がしたくて」
「ええ~? そういうの、いらない。あたしは満たされればそれでいいの。だから、してよ」
「悪いけど、他を当たってくれ。俺ではきっと満足させられない。マリーのその、ベタベタな甘さには耐えられないんだ」
「な、何で……そんなこと言うの……ひどいよ」
あたしはマリー。マリーゴールド。何度フラれても、フラれることがあっても男が大好き。付き合う男はほとんどが学校の中。大体いつも同じパターンで別れてるけど、男の方から去って行く。どうしてかな。あたしはただ単に、甘い空間を過ごしたいだけなのに。
「マリーは愛情にハマりすぎてるんじゃないの? それに、嫉妬心が半端じゃないし……ここに通ってる男たちにマリーの愛を受け止められる奴なんていないと思うよ」
「どうして? 一緒にいるだけのことじゃない。彼たちが喜ぶようなことをあたしはするのが好きなの。それなのにどうしてフラれるの? 意味分からないよ」
マリーは入学からの学友。女の私から見ても、身に纏う雰囲気は家柄がいいだけあって気品に満ち溢れているのに、男と関係を持つとてんでダメ女と化す。可憐な見た目とは真逆の、どろどろとした愛情が男たちには重すぎるんだ。
「ねえ、誰かいない~?」
「私に言われても……あ、それなら適任者がいるけど。彼に受け止めて貰えば?」
「だぁれ?」
彼には悪いけど、マリーのことを見れるのはたぶん、あの先生だけ。あの人なら彼女の愛を雄大な心で受け止めてくれる。と、思うしかなかった。
「マリーゴールド。ようやく授業を聞く気になったのか?」
「あたし、先生がいいです。先生しかいないんです。どうか、どうか……」
「な、何事だ!? 何故そんなに距離を詰めて来ている……?」
「あたしと一緒になってくださいませんか」
「何だ? それはどういう意味で……」
「こういう意味――」
マリーは耐えられずに目の前の年配な先生に抱きつき、抱擁を交わしてしまう。甘美な香りを漂わせながら、先へ進もうとしたが、それを阻止する彼。
「なんて下品極まりない。お前は真心が足りないな、マリーゴールド。それさえ無ければ家柄に見合った淑女となり得るのに惜しいことだ」
「では、そうします……そうすれば、受け止めて下さいますか?」
「善処する……約束など出来ないが」
「あなたの為に、あたしは変わってみせます。そして深く深く愛を注ぐと誓います――」
可憐で見目の鮮やかな彼女。嫉妬と深すぎた愛はようやく、年配の彼によって受け止められるのかもしれない。




