第六話 ただまっすぐに
「オンユアマーク、セット」
パンッ!!
スタートの合図と共に、全力で走り出す。様々なメニューをこなしてから1番最後に行うこの100m走。たまりにたまった乳酸。全身に酸素を運べと心臓フルバクバク。今にも太ももがはち切れそうだ…。だがおれはここで限界を超える!!
GOGO赤嶺!!かっこいい〜♡
おれには見える…!ゴールで待ってるかわいいチアガールが…
「赤嶺のタイム、11秒36、自己ベストから1秒オーバーだからペナルティな」
「はぁはぁ、おい…おまえの、ふー。おまえの辞書に慈悲という言葉はないのか、高橋…」
「そいつはないが愛のムチという言葉にマーカーを引いてる。観念しな。」
「あーあ!!かわいいかわいいマネージャーさんがいたらな!!『ふふ、甘えん坊さんね♡』って言って見逃してくれるだろうにな!!」
「赤嶺くんの走る姿素敵♡」
「おし、おれ、がんばる♡じゃねぇよ!おまえに言われても嬉しくねぇんだよ、くそがああああ!」
叫びながら走っていく彼の後ろ姿は見ていて悲しかった。きっと全米が少し泣くくらいの悲しみを背負っている。スタート地点に戻って「彼女が全力で欲しいです!」と叫んでいるのはさすがに引いた。
部活が終わり、おれは家へと帰った。テーブルの上に広げたままのバラバラになったモバイルバッテリーを片付けて、買ってきたカップラーメンを食べる。
(今日は苦労したな。)
作業をはじめたのは起きてすぐの朝3時。一つ目のモバイルバッテリーは全てバラバラにして構造を調べ、二つ目で試行錯誤して、発火を狙っていたが、煙が出るくらいにはいじれるようになった。そして三つ目を細工をし、岩田のと交換した。朝までかかったからな。部活もこなしてへとへとだ…。
だがこれで、岩田はもう学校へはこれないだろう。他のやつをいじめるやつは悪だ。悪は排除しなければならない。それがおれの使命なんだ。
(洗濯物は明日やろう…。)
おれは古びた毛布にくるまり、目を閉じた。
次の日の朝、天気予報とは裏腹に空一面を黒くて厚い雲が覆っていた。