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恐怖が抑えきれず声をあげそうになるが、琴子は必死でそれを堪えた。
存在があやふやなもののために周りを惑わせたくなかったし、また彼女自身自分の目に自信を持てていなかったのだ。
『それ』の中で何かが蠢いた。
目を逸らしたいと願うが、彼女の頭は誰かが押さえつけているかのように動いてくれない。
黒い板からにゅっと何かが飛び出す。
人の足のように見えた。
声にならない叫びをあげる琴子。
「どうした?酷いようだったら保健室に行って寝てきてもいいぞ?」
心配気に声をかける担任に、彼女は震える手で窓の外を指差す。
もう既に半身が覗いていた。
「ん?なんだあれ……?」
永谷が不審気に眉をひそめ、『それ』のある場所を見る。
のぞいている身体は彼にも見えるらしく、琴子は場違いとわかりながらも少しほっとした。
ついに、その人のようなものが校庭に全身を曝け出した。
永谷の様子に、亮や一眞たちも窓から外を覗く。
「誰だろう……不審者かな」
「まじで?やばいじゃん」
「さっきまで誰もいなかったのに……」
永谷だけではなくその姿は全員に見えているようで、他の教室からもざわめきが聞こえてきた。
姿は人間と同じ様に見える。
かなり大柄な、男のようだ。
しかしその存在はどこか異様で。
***
男が巨体をうーんと空へ伸ばす。
ごき、と太い首と、岩のように盛り上がった肩を鳴らした。
「あー、狭かった……」
さて、と満足気に辺りを見渡す男。
「ウォーミングアップといきますか」
口周りを覆う真っ黒な髭から大きな歯をぞろりとのぞかせ、男は唇の両端をつりあげた。




