6-11
自らの胸を拳で殴り、刻印を引っ掻いた。
何度も、何度も、何度も。
跡形もなく消えてしまえと思いながら。
「白井さんっ!」
工藤が声をあげ、彼女の腕を掴む。
「はなしてっ!!!」
振り払おうと琴子が叫んだ瞬間、彼の身体は大きく後方へと吹き飛ばされた。
背中を床に強く打ち付け痛みに咳き込む工藤の姿に、彼女の瞳が恐怖の色に染まる。
「あ……」
言葉にならない声が唇の間から漏れていく。
いやだ。傷つけるつもりなんてないのに、どうして。
藤の肩口から噴き出した鮮血が脳裏を支配した。
正常な思考力を失っていた琴子は、それすらも自分のせいなのだと思い込んだ。
「あああ来ないで! 来ないでっ!! くるなああああああっ!!!」
よろよろと立ち上がり、腕を出鱈目に振り回す。その弾みで彼女の手から飛び出したエネルギーに、先ほどまで囲んでいたテーブルがなぎ倒された。
自らを抱きしめ、琴子は身体に爪を食い込ませる。
「なんでっ!! どうして!?
どうしてこんな思いしなきゃいけないの!?
なんでこんな苦しまなきゃいけないの!?
普通に学校来て普通に過ごしてただけなのにっ!!! どうしてこんなモノが私の中にいるの!? なんで勝手に出てくるの!?
私が、私が一体何をしたのよっ!!!」
激しい動悸が、彼女の身体を内側からバラバラにしようと暴れまわる。
その苦痛と恐ろしさに、琴子は泣き叫んだ。
「響。おい、響っ」
呆然とその場に釘付けにされていた響は、後ろから肩を叩かれはっと振り向く。
翔が、琴子を注視したまま彼の耳元に口を寄せてきた。
「琴子のために怪我をする覚悟くらい、あるよな?」
彼女を助ける方法があるのか。
答えるまでもないと、響は短く言葉を返した。
「どうしたらいい?」
「響はとにかく琴子に声をかけて、少しずつ近づいていってくれ。俺が琴子に気がつかれずにそばへ行けるように。正面突破でもいいんだが、そしたらきっとさらにパニックになっちまうと思うし」
「それだけでいいのか?」
「ああ。その後は俺がやる」
彼が何を考えているのか、何をするつもりなのか、訊きたいことは山ほどあったが、響はわかったと頷くだけに留め、翔の背中を軽く叩いた。




