6-2
あまり上げることのない大声に少し疲れ、琴子は大きく息をついた。
言葉を探しながら、ゆっくりと後を続ける。
「知ってる? 怒りって、感情の蓋なんだって。怒ってるときにする行動や言った言葉は、本心じゃないんだって。
だから、さっきのが響の本性だなんて、あるはずがないの。あなたが優しいことは、みんなが知ってる。わかってる。
私たちが響を信じてるのに、自分で自分のことを疑わないで」
それに、と琴子は少し笑った。
「ありがとう。守ってくれて。
響も私を一人にしないでいてくれるんだって思えて、嬉しかった」
本当にありがとう。
そう目をかまぼこ型にして言う琴子を見ながら、響は自分が限りない幸福感に包まれるのを感じた。
嫌われると思っていた。
なじられることを覚悟していた。
恐怖の目で自分を見る彼女を想像した。
しかし待っていたのは、どこまでも優しく温かい自分への想いを乗せた言葉と、美しく変わらぬ一対の瞳で。
嬉しくて、安堵して、愛しくて、こんなに幸せな連鎖がこの世に存在するなんて。
琴子への感謝と、こんこんと湧き続ける愛情に窒息してしまいそうだった。
自分の身体が、彼女への愛情のみで満ちればいいのにと思った。
そして、響は決意する。
これから先どんなことがあろうとも、琴子のことを守り支え続けていこうと。
自分が彼女の盾になるのだ。
自らを犠牲にすることになったとしても。
「ったく、心配かけやがって」
ため息混じりの声に振り向くと、翔のほっとしたように微笑む顔が目に飛び込む。
「響が琴ちゃんを守ってくれたおかげで、こうして先生に話すこともできたわけだしね。まあ、ちょっとやりすぎちゃったけどさ」
そう言った一眞の横で、亮が笑った。
「まあ人間だもん、やりすぎることぐらいあるよ。気にすんなって!」
優しい言葉が素直に嬉しくて、響は照れたように笑う。
三人の後ろから、永谷が詫びるように小さく頭を下げた。
「本当に悪かった。俺がお前たちの話をちゃんと聞いていればこんなことにはならなかったのに。
ごめんな、響。辛い思いをさせちまったな」
「そ、そんな……謝るのは俺の、ほうで……」
永谷は自分と同じ目線の響の頭をくしゃりと撫でた。
普段ならば絶対にしないことだ。男子高校生の頭を撫でるなど。
しかし、彼の目には響の姿が小さな子供のように映っていた。
打ちひしがれる子供を安心させるには、抱きしめるか頭を撫でるのが1番だ。
永谷はそれを、よくわかっていた。




