6-1
胸が痛くなるような静けさの中、永谷がそっと顔を上げた。
そこに涙の後は見られず、琴子は少しほっとする。
「響の他には誰がいる? 教えてくれないか」
静寂の余韻を感じさせる声で、永谷が尋ねた。
翔たちと永谷が交わす言葉を追いながら、琴子は心配そうに響の様子を窺う。
ごちゃごちゃに散乱した勉強机。永谷の腕や、首にできた痣。所々破れた服。
自分が残した悲惨な爪痕の中で、響は顔を覆い自らを責め続けていた。
なんと言葉をかけるのが正解なのか、それともそっとしておくべきなのか、琴子にはわからなかった。
しかし、このまま彼のことを眺めているなどできない。
そっと近寄り、肘に触れた。
びくりと身体を揺らし、響は顔から手を離す。
涼しげな目元は歪み、恐怖と自責の混ざり合った瞳は琴子の姿を見た瞬間わずかに大きく開いた。
彼の表情に少なからず動揺し、琴子の心もまたひどくぐらつく。
なんと声をかけたらいい?
気にしないで? 大丈夫だよ?
どれもありきたりで頼りなく、きっとさらに彼の心を乱してしまうだけだ。
「おれ……俺、なんてことを……」
なじるように、響は膝に爪を食い込ませた。
ぎり、という音が頭蓋に響くほど奥歯を噛み締める。
奥歯を砕いてしまいたいと思った。
「知らなかったんだ……!あんな強い力があるなんて!
先生を傷つけて……みんなを傷つけて、怖がらせて……。
これが俺の本性なんだ、怒りに任せてあんな恐ろしいことを…………!!」
「違う!」
激しい声で、琴子がそれを遮った。
その声に永谷と他の生徒たちが驚いて顔を上げる。
「本性なんかじゃない! 自分のことをそんなふうに思わないで!
私は響のことを怖いなんて思ってない! 全部私を庇うためにやってくれたことだってわかってる!
そんな優しい人を、恐ろしいだなんて感じると思う!?」




