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「いつからだ……!」
「え……」
「いつからその妙な力を使えるようになった!? 答えろ!!」
少ししわがれた低い声で、永谷は彼の身体を揺さぶり続ける。
喉の奥に指を突っ込まれたかのように、響は言葉に詰まった。乾いた唇を舐め、懸命に声を絞り出す。
「お、俺は……一週間前くらいから……」
愕然とした永谷は、大きく眼鏡の奥の目を見開いた。
予想だにしなかった事実に喘ぐような呼吸を繰り返す。
胸倉を掴んでいた手を離し、冷静さを保とうと自らの髪の毛を引っ張った。
そして何かに気づいたようにはっと顔を上げる。
「おい……『俺は』って言ったな? てことは、お前だけじゃないのか? そうなのか?」
重苦しい沈黙が、辺りを包む。
永谷は全てを悟り、近くの机に拳を叩きつけた。骨が砕けてしまいそうな勢いだったが、痛みなど微塵も感じなかった。
小刻みに震えている大きな背中を、琴子はただ見つめ続ける。
寄り添い、身体を支えるべきなのかもしれない。
だが、今の永谷の顔を見てはいけない気がした。
呼吸すらもままならないような空間で、ポトスたちだけが水分を求め身体をしならせていた。




