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「げほっ……俺はいいから、せっ先生を……ごほっ!」
咳き込みながら言う翔の言葉を流し、琴子は翔の身体の様子を見る。蔓に巻きつかれていた所は擦れて皮がむけ赤くなっていたが、骨に損傷はない。吐息を漏らし、琴子は少しちぎれた筋繊維と傷ついた皮膚を治そうと翔の首元に手を当てた。
「へ、平気だから早く先生をっ……」
「じっとして」
有無を言わせぬ様子の琴子に気圧され、おとなしく治癒を受ける翔。彼女の瞳は、また淡いオレンジ色に染められていた。
彼の処置を10秒ほどで済ませ、琴子はすぐさま永谷の元へと向かう。
意識こそ失ってはいなかったが、ぐったりとその身を亮と一眞に預け、痛みに顔を歪めていた。
骨は折れてはいないが、肋骨に少しヒビが入り、細胞も多く壊れてしまっている。琴子はその細胞を巡りヒビを治しながら、永谷が感じているであろう痛みも同時に和らげた。
「琴ちゃん、先生大丈夫なの……?」
一眞の不安げな声に微かに頷きながら処置を続ける琴子。藤の腕を治したときほど大変ではなかったが、返事をする余裕などなかった。
突如、永谷がばっと身を起こし琴子の手を跳ね除けた。あまりの勢いに彼女は思わず尻餅をつく。
「先生っ、まだ終わってな……!」
彼女の声など聞こえないかのように永谷は立ち上がり、よろよろと響に近寄っていく。
響が殴られる、と琴子は思った。止めようと腕を掴んだ一眞も振り切られ、とうとう永谷は放心状態の響の目の前に立ち、その胸倉を掴んだ。
「先生、響もわざとやったわけじゃないんだ!! 琴子を助けたくてつい手が出ちゃったんだよ!」
亮が琴子を助け起こしつつ懇願する。
永谷の燃えるような表情に、覚悟を決めた響はぎゅっと目を瞑った。
しかし、担任の口から漏れた言葉は、彼らが予想していたものとはだいぶ違っていた。




