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「ホームルームの前にほら、出し物。どうすんだ?」
永谷は課題を集めながら小さな教室にいる自分の生徒達を見渡して尋ねた。
「全員体調不良ってことになりませんかね?」
「無理だろー、俺亮と一眞が朝サッカーしてたの見てるもん」
おそらくは冗談で言ったであろう亮の言葉は永谷に一蹴され、彼はそっかーと背もたれに身を預ける。
「それなら、俺と琴と翔はセーフなんじゃない?」
机に投げ出した腕に顔を乗せながら言った響の言葉に、永谷は大真面目な顔で頷いた。
「それもそうか。じゃあお前ら2人で頑張れ」
担任が出したあまりにも乱暴な結論に目を剥く亮と一眞。
「え、なにその理不尽な感じ」
「勘弁してくださいよー!」
(こんなんでちゃんと決まるのかなー)
そのまま不毛な議論を続ける友人と永谷を眺めながら、琴子は半ば他人事のようにのんびりと思いを巡らす。
「琴は?」
「ん?」
隣の席から投げかけられた声に、彼女は手に顎を乗せたままくい、と顔の向きを変えた。
視線の先には、未だ眠そうな響の顔。
「何か考えてきたの?」
痛いところを突いてくる。
数秒の間を空け、琴子はすっと顔を元の向きへと戻した。
その口元は笑みを隠しきれておらず、微かに緩んでいた。
「……だと思った」
響がおかしそうに長い髪を揺らしながら笑う。
細い目が線のようになり、その笑顔を見るたびにニャンちゅうみたいだと琴子は思っていた。
長髪黒髪が似合うほどだから綺麗な顔をしているのだが、時折見せる表情にはマスコットキャラクターのような愛嬌が感じられる。
「集会があることすら忘れてたよ。今朝大和に言われて思い出した」
「もうどっちが上かわからんね」
神妙な顔で、琴子は同意の相槌を返した。
大和が兄で自分が妹である構図が容易に想像できてしまい、彼女はまた内心のしがない思いに密かに溜息をつく。
「なー白井、なんかないかー?」
突然永谷から困り顔で話を振られ、琴子はぴくりと体を反応させた。
大和が言っていたヒゲダンスという言葉が頭をよぎるが、人前で踊るなどまっぴらごめんな彼女はそれを隅に追いやり、負けじと困り顔を見せる。
「思いついてたらこんなに悩んでないですって……」
「そうだよな…お前、集会があったことすら忘れてそうだもんなあ」
響が思わず噴き出し、下を向く。
図星をつかれた琴子はぱっと頬を赤らめ、隣で肩を震わせている友人を横目で軽く睨んだ。




