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反射的に右手の指がぴくりと動く。
直後、ひとつのポトスがその繊細な蔓を目にも留まらぬ速さで伸ばし、永谷の手を強く叩いた。おそらく周りの皆には何も見えていなかったであろう。永谷のみが、信じられないという表情で響のことを見ていた。
――響、なんでもいって。ぼくたちにできることなら、なんでもする。
真剣な声色でポトスたちは身構える。
ありがとう、と心で呟き、そしてこう言った。
「しょうがないだろ…話を聞いてくれないんじゃ、実際に見てもらうしかないじゃないか」
――りょうかい!まかせて!
ポトスたちに右手で合図をする。既に周りの状況は見えなくなっていた。
目に入るのは、怒りの対象である担任だけだ。
誰かが自分に叫んでいるような気がしたが、轟々と濁流のような音が頭の中で響いていて彼の耳には届かなかった。
響は紛れもない激怒に支配されていた。
しかし、それと共になんともいえない高揚感が彼の中で生まれ始める。
右手の指先を少し動かせば、永谷の身体の骨や、筋肉が軋むのを感じた。
自分が命令すれば、ポトス達はたちまち彼の身体をひねり潰しにかかるだろう。
見てみたい。この力の限界はどこなのだろう。そんな凶暴な意思が頭をよぎった。
(先生が悪いんだ。琴にあんな顔をさせるから)
思い知らせてやろう。琴子を傷つけたらどうなるか。
更に命令を下そうと右手に意識を集中した。ポトス達は合図を待ち構えている。自然と、彼女の腕を掴む手にも力が入った。
その瞬間、響の左手は虚しく空を掴む。
琴子に振りほどかれたのだ。
そう理解したのと、頬に鋭い痛みを感じたのは、ほぼ同時だった。




