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0の刻印【第一部・すべての始り】  作者: やまかわ まよ
第5話【鮮緑の豪腕と共に】
56/76

5-12

「なっ……!?」


よろよろと後ずさり、響は尻餅をついた。

全身が、得体のしれない恐れに震え上がる。



――怖がらないで。あなたに声が届いたのが嬉しかったの。


「樹がっ、なんで……!?」


――植物にだって植物の中の言葉があるのよ。でも、理解できる人がいるなんて!



混乱する頭を整理しようと、響は頭を振って立ち上がった。

距離をとりながら、まじまじとグァバの樹を見つめる。見たところ口や目が現れたりなどという変化はない。



――当たり前よ、植物だもの。


「こ、心が読めるのか?」



見透かしたような樹の言葉に目を見開いた。



――あなたのだけね。ついさっき、聞こえるようになったのよ。


「俺だけ?」


――そう!いつものようにあなたがわたしたちの様子を見に来てくれて、わたしの実に指を触れたときから!

あなたの心と、わたしたちの心がつながったの。だからほら、ほかのみんなの声も聞こえるはず!



その言葉に、半信半疑ながら響は耳を澄ませる。



――…え!ねえ!きこえる?ぼくのこえ!

――兄ちゃん、いつも会いに来てくれてありがとよ!おれの実、酸っぱいかもしれないけど食べてくんねえかなあ?

――あたしたちもはなせるのよ!したをみて!



辺りに溢れる、さまざまな声。イチジク、オレンジの樹、それに庭に敷き詰められた芝生までが話している。

あまりに信じがたい光景に、響はあんぐりと口をあけたまま立ち尽くした。


「どうして……いきなり、こんな……」


――わたしたちにもわからない。こんなの、初めてのことだから。でもわたしたちはあなたとお話しできるようになれて嬉しいの!

あなたは、嬉しくない?



グァバの樹、そしてほかの植物たちが寂しそうに枝や葉をうな垂らせる。

そんな姿を見せられたら、嬉しくないなんて言えるはずもなく。


「い、いや、嬉しい……よ?」


ぱあっと枝を広げ、さわさわと葉を揺らす植物たち。



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