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「なっ……!?」
よろよろと後ずさり、響は尻餅をついた。
全身が、得体のしれない恐れに震え上がる。
――怖がらないで。あなたに声が届いたのが嬉しかったの。
「樹がっ、なんで……!?」
――植物にだって植物の中の言葉があるのよ。でも、理解できる人がいるなんて!
混乱する頭を整理しようと、響は頭を振って立ち上がった。
距離をとりながら、まじまじとグァバの樹を見つめる。見たところ口や目が現れたりなどという変化はない。
――当たり前よ、植物だもの。
「こ、心が読めるのか?」
見透かしたような樹の言葉に目を見開いた。
――あなたのだけね。ついさっき、聞こえるようになったのよ。
「俺だけ?」
――そう!いつものようにあなたがわたしたちの様子を見に来てくれて、わたしの実に指を触れたときから!
あなたの心と、わたしたちの心がつながったの。だからほら、ほかのみんなの声も聞こえるはず!
その言葉に、半信半疑ながら響は耳を澄ませる。
――…え!ねえ!きこえる?ぼくのこえ!
――兄ちゃん、いつも会いに来てくれてありがとよ!おれの実、酸っぱいかもしれないけど食べてくんねえかなあ?
――あたしたちもはなせるのよ!したをみて!
辺りに溢れる、さまざまな声。イチジク、オレンジの樹、それに庭に敷き詰められた芝生までが話している。
あまりに信じがたい光景に、響はあんぐりと口をあけたまま立ち尽くした。
「どうして……いきなり、こんな……」
――わたしたちにもわからない。こんなの、初めてのことだから。でもわたしたちはあなたとお話しできるようになれて嬉しいの!
あなたは、嬉しくない?
グァバの樹、そしてほかの植物たちが寂しそうに枝や葉をうな垂らせる。
そんな姿を見せられたら、嬉しくないなんて言えるはずもなく。
「い、いや、嬉しい……よ?」
ぱあっと枝を広げ、さわさわと葉を揺らす植物たち。




