5-11
いつ頃だろうか、この想いを自覚し始めたのは。
どうにもそれはあやふやで、響自身にもよくわからなかった。いつの間にか自分の中に住み着き、育っていったモノ。
ただ、初めて琴子に出会った日。
はにかみながら微笑むその姿を見た時、なんて綺麗な目をした子だろうと思った。あんなに澄んだ美しい瞳を、彼はそれまで見たことがなかった。
その瞬間から、彼女の姿を追わずにはいられなくなってしまったのだ。
琴子が悲しそうにしていたらそばで慰めたいと思ったし、できることならいつも自分の隣で幸せそうに笑っていて欲しかった。そのためなら、どんなことだってできるのにと思った。
この気持ちを恋と呼ぶのなら、きっとそうなのだろう。
初めて視線を交わしたあの時から、自分は琴子に惹かれ始めていたのだ。
残念ながら、彼女は全く気がついていないようだけれど。
一生懸命不安を隠した昨日の笑顔を思い出し、響は瞳を曇らせた。
ただでさえ一人で抱え込みやすい性格をしているというのに、永谷は誰にも話してはいけないと言う。事情があるのは察するが、それでもひどいことを言うもんだと嘆息した。
――ほんと、ひどい人ね。
「え?」
きょろきょろとあたりを見回した。誰もいない。
(声が聞こえた気がしたけど……)
気のせいだろうかと首をひねった。
――気のせいじゃないわ! 私はここよ!
再度響いた声に、ぴたりと体の動きを止める。
確かに聞こえた。しかも、かなり近いところから。
不審に思いながら首を動かすも、やはり誰もいない。
――ここよ、ここ。後ろを向いて!
言われた通り、おそるおそる後ろを振り向く。
「……? 樹があるだけじゃないか……」
見慣れたグァバの樹が、いつものようにそこに直立していた。
まさかこれが……?
――そう! わたしよ、グァバの樹!
やっと気づいてもらえた!
そう言って嬉しそうに、グァバの樹は横へ伸びた枝を震わせた。




