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一方の翔は、響から距離をとりながら伸びている蔓の根元を探していた。
それを断てば、何とかなるかもしれない。
「あれか……!!」
教室後方のコルクボードに止められた、5つのポトス。何本もの蔓がまるで生き物のように畝り、太く育ちながら伸び続けていた。すでにいくつかは重みに耐えきれず、ペットボトルで手作りした鉢が下に落ちてしまっている。
急いで翔は筆箱からカッターを取り出し、切断しようとポトスに近づいた。
しかし、身の危険を察知した植物たちは瞬時に彼へも牙を剥く。
手からカッターを叩き落とし、翔の首に蔓を巻きつけた。
「がっ! くそっ……!」
必死で剥がそうとするがその手も絡め捕られ、彼は身動きが取れなくなった。
(やべえ……このままじゃ……)
視界が徐々に霞んでいく。もうだめかと思われたその時、翔の耳にパァンッ!という乾いた音が響いた。
◇*◇*◇*
響に異変が現れた時期は、琴子を除く4人の中では一番早かった。
琴子を見舞いに行った次の日、響はいつものように庭の樹の様子を見に行った。
彼の家の庭には様々な果樹が生えている。イチジクにグァバ(メキシコでは一般的な果樹。黄色い実をつける。酸味はなく甘いが、少し癖のある味)、オレンジ…。
その中でもお気に入りはグァバの樹だった。今はまだ少し青いものばかりだが、黄色く熟した食べごろの実は甘く芳醇な香りを放ちはじめる。香りもさることながら味もまた格別で、響はもぎたてを食べることを楽しみにしているのだ。
「これはもう少しだな……」
指で弾力を調べ、順調に熟していることを確認し響は微笑んだ。
雲一つない青空を見上げ、今日は何をしようかなと考える。課題もない、休み明けに試験が控えているわけでもない。何とも贅沢な連休だ。
(琴は何してるんだろう)
彼女の顔を思い浮かべ、響は切なさの混ざった息を吐き出した。
学校に行かなくていいことが嬉しくないわけではない。それ以上に、琴子に会えないことが寂しいだけだ。
彼は彼女に、密やかな恋心を抱いていた。




