表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0の刻印【第一部・すべての始り】  作者: やまかわ まよ
第5話【鮮緑の豪腕と共に】
54/76

5-10

一方の翔は、響から距離をとりながら伸びている蔓の根元を探していた。

それを断てば、何とかなるかもしれない。


「あれか……!!」


教室後方のコルクボードに止められた、5つのポトス。何本もの蔓がまるで生き物のように畝り、太く育ちながら伸び続けていた。すでにいくつかは重みに耐えきれず、ペットボトルで手作りした鉢が下に落ちてしまっている。

急いで翔は筆箱からカッターを取り出し、切断しようとポトスに近づいた。

しかし、身の危険を察知した植物たちは瞬時に彼へも牙を剥く。

手からカッターを叩き落とし、翔の首に蔓を巻きつけた。


「がっ! くそっ……!」


必死で剥がそうとするがその手も絡め捕られ、彼は身動きが取れなくなった。


(やべえ……このままじゃ……)


視界が徐々に霞んでいく。もうだめかと思われたその時、翔の耳にパァンッ!という乾いた音が響いた。




◇*◇*◇*


響に異変が現れた時期は、琴子を除く4人の中では一番早かった。


琴子を見舞いに行った次の日、響はいつものように庭の樹の様子を見に行った。

彼の家の庭には様々な果樹が生えている。イチジクにグァバ(メキシコでは一般的な果樹。黄色い実をつける。酸味はなく甘いが、少し癖のある味)、オレンジ…。

その中でもお気に入りはグァバの樹だった。今はまだ少し青いものばかりだが、黄色く熟した食べごろの実は甘く芳醇な香りを放ちはじめる。香りもさることながら味もまた格別で、響はもぎたてを食べることを楽しみにしているのだ。


「これはもう少しだな……」


指で弾力を調べ、順調に熟していることを確認し響は微笑んだ。

雲一つない青空を見上げ、今日は何をしようかなと考える。課題もない、休み明けに試験が控えているわけでもない。何とも贅沢な連休だ。


(琴は何してるんだろう)


彼女の顔を思い浮かべ、響は切なさの混ざった息を吐き出した。

学校に行かなくていいことが嬉しくないわけではない。それ以上に、琴子に会えないことが寂しいだけだ。


彼は彼女に、密やかな恋心を抱いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ