5-9
永谷は叩かれた自分の手と響を見比べた。
今のは響が……? でもそれにしては、彼の腕が動いた様子はなかった。
「今の、お前がやったのか……?」
永谷の問いに、響は表情を変えず低い声で答える。
「だとしたら、何ですか?」
今まで聞いたことのない声色に、琴子は思わず響の顔を見上げた。
未だ右肘のあたりを掴まれたままだったが、その感触は今の声とは対照的にとても優しい。
横顔に見える彼の瞳が鮮やかな緑色に光った気がして、思わず彼女はじっと覗き込んだ。
響の瞳の変化に、翔も気づいた。スクールバスで見た琴子の不思議に光った瞳が頭をよぎる。
「響、お前!!」
響がこれからしようとしていることを察し、翔は声をあげた。
「しょうがないだろ……話を聞いてくれないんじゃ、実際に見てもらうしかないじゃないか」
ぼそりとそう言って、響は右手を自分の目の高さまで上げる。
直後、彼の背後から幾本もの鮮緑の蔓が姿を現した。
それらはゆっくりと、確実に標的へと向かっていく。
「な……なにが…………」
目の前で起きている事態に正常な判断を下すことができず、永谷は自分に迫る太い蔓を呆けたように眺め、立ち尽くしていた。
逃げようとしない標的の脚に、腰に、胸に、容赦なくそれは絡み付く。
「おいっ、響を止めないと!」
驚愕のあまり茫然自失としていた琴子たちは、翔の声に我に返った。
亮と一眞は永谷の身体に巻きつく蔓を引きはがそうと手をかけるが、その力は凄まじくびくともしない。
そして標的に纏わりつく邪魔者を排除しようと、彼らに対してもその敵意のこもった豪腕を伸ばした。
弾き飛ばされる2人。
「亮! 一眞っ!!」
悲鳴をあげる琴子に大丈夫だと手で合図をし、2人は痛みに顔を歪めつつ再び向かっていく。
「響、お願いやめて!! このままじゃ……!」
琴子は必死で響に呼びかけるが、その声は届かない。彼は担任を注視したまま、右手の指先を微かに動かしていた。
止めようと右腕に手を伸ばすも強い力で振り払われる。それなのになぜか彼女の右肘を掴む手は優しく、それでいて頑なに離そうとはしなかった。




