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「お前ら……って、なんだ? どうした?」
ざらついた沈黙を破ったのは、いつの間にか教室の扉を開け姿を現した永谷だった。
「わっ、先生!」
「いつの間にっ……!」
「いつの間にって、普通に入ってきただけ……まあいいや」
生徒の不自然な態度に怪訝な顔をした永谷だったが、自分の役目を思い出しすっと表情を消す。
「今日のホームルームはなしだ。午前中の俺の授業は自習にするから、各自教室で待機するように」
担任の言葉に戸惑いながらも、頷く生徒たち。
そして永谷は琴子に顔を向け、こう言った。
「白井は別だ。今から俺と一緒に来い」
その言葉に一眞があわてて立ち上がる。
「あ、ちょっと待ってください!先生に話したいことが……」
「悪いな、後にしてくれないか。忙しいんだ」
永谷はぴしゃりと一眞の声をさえぎり、行くぞ、と琴子を顎で促す。
おかしい、と琴子は思った。はやくここから立ち去りたいだけのように思えた。
一眞が訴える。
「大事な話なんです! 琴ちゃんに起こったこととも関係があると思って!」
やはりか。永谷は生徒に気づかれぬよう、そっと息をついた。
仲のいい生徒たちだ。お互いのことを大切に思い合っているのがよくわかる。男子四人の中に女子一人というアンバランスな構成だからか、特に琴子に対しては日頃から全員のさりげない気遣いが見え、その理想とも言えるクラス仲を永谷はいつも微笑ましく、そして嬉しく思っていた。
今も彼らは異変に巻き込まれた琴子をそばで支えようと必死なのだろう。
しかし、今回ばかりはそれをさせるわけにいかない。
永谷は心を決め、生徒たちと向かい合った。
「くだらないことを言うんじゃねえよ。そのことについてはもう片がついてる。終わった話だ」
心が冷えるような声に、琴子たちは呆然と彼の顔を見る。
困惑した様子で亮が言った。
「か、片がついたって……じゃあどうして琴子を連れていくの?」
「お前らには関係ないことだ。白井、はやくしろ」
仮面をかぶったような表情の永谷に促された琴子は、首を振りながら後ずさる。
気心が知れているはずの担任に、なぜか空恐ろしさを感じていた。




