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「なんというか……間近で見ると衝撃が凄いな……。もうコントロールとかもできてるわけ?」
「わ、わかんない……なんかできるような気がして……」
翔の言葉に、琴子は自分自身も戸惑いながらそう答えた。
以前よりもスムーズにこの力が使えるようになっているのごわかった。しかし、彼女を戸惑わせたのはそのことだけではない。
力を流し込もうとした時の、あの高揚感。
細胞のみならず、それよりも小さな原子のひとつひとつを感じられた。
細胞を少し弄れば筋肉を増幅させることもできるし、身体を羽のように軽くすることもできるかもしれない。外見すら変えられる可能性があった。
それはひどく魅力的な選択に思え、琴子は試したくて堪らなくなった。
そこを、翔の声に引き戻されたのである。
あのまま声をかけられなければ、自分はどうしていただろうか。
腕を見ると、鳥肌が立っていた。
「あ、もうすぐ着くぜ」
翔に言われ窓の外を見ると、学校の近くを走っているのがわかる。バスに乗り込んだ時よりも、若干空が明るくなっていた。
窓に目を向けたまま翔が言う。
「先生の話って、何なんだろうな」
うーんと口の中で唸りながら、琴子は1週間前の担任の言葉を思い出した。
『――1週間、学校が始まるまで待っていてくれないか。その頃には準備ができてるだろうから』
あの時も気になった。準備とは、何のことなのだろう?
なんとなくわかるのは、お茶を飲みながら和やかな雰囲気の中で聞ける話では到底ないであろうということだ。
「俺の電気のことも先生に話してみようと思う。琴子のそれと無関係とは考えられないから」
車体が校門に横付けされる。
他学年の子供達が降りきるのを待ちながら翔が言った。
「みんなにはどうするの? 話す?」
琴子が尋ねると、翔はすこし悩んだ末に頷いた。
「話してみるよ。びっくりされるだろうけど、あいつらなら疑わずにいてくれるだろうし」
そう言って笑う翔に、琴子もそれがいいねと唇の間から白い歯を見せた。
タラップを降りると、仄かにハカランダの香りをのせた風が、優しく琴子の髪をさらっていった。




