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「あ……」
「ん? どうした?」
何かに気がついたように声を上げた彼女の顔を見、翔はその目線を追う。
「あ、ぶつけたのかそこ。痛む?」
「……ねえ。もしかしたら、試せるかも」
そう言ってちらりとこちらを見た彼女の瞳が、淡いオレンジ色に光ったように見えた。少し息をのむ翔。
琴子は右膝に手を置き、じっとそこを見つめ始める。
「見てて……」
手に神経を集中し、膝の細胞を探った。内出血を止め、血管を修復し、皮膚を元の色に戻す。そして注視したまま、汚れを拭うかのような動きで手を退ける。
「マジかよ……」
青く染まっていた膝小僧の痣は、跡形もなく消え失せていた。それまでどこか魅せられたように瞳を輝かせていた琴子だったが、翔の言葉にふと我に帰る。
同時に目の中の光も、すっと奥へと姿を潜めた。




