5-3
わずかに震える睫の下から自分を見上げる彼女に、翔はほんの少しだけ笑って見せた。
「だからさ、お互い遠慮……っていうのかな、気ぃ遣うのはやめようぜ。
俺もお前も、もう一人じゃない。巻き込まれた奴同士、話せることもあるだろうしさ」
「……ありがとう」
嬉しそうに目元を赤らめ、琴子は一言そういった。
もっと伝えたい言葉はたくさんあったが、これ以上話していたらこみあがるものを抑え切れそうにないと思った。
「や、その……ほかの奴が俺の立場だったとしても同じこというと思うしさ!」
自分の言葉に赤面し、翔は窓の外に顔を向けその場をごまかす。
ほんのりと赤くなった彼の耳を見ながら、琴子はそうだねと微笑んだ。
「それで、気になってたんだけど」
こそばゆいような沈黙を破り、翔は尋ねた。
「琴子の力……っていうか異変ってさ、結局どんなやつなんだ?
俺が知ってるのは、その、フジセンの腕をくっつけた事ぐらいで……」
顔を正面に向け、思い返すようにじっと前の空席を見つめる琴子。
「……藤先生の腕を治したのもそうなんだけど、あの日起こったのはそれだけじゃなかったの。
あの不審者から大和を守らないとって思った瞬間体がかっと熱くなって、気がついたらあの男は後ろに吹き飛ばされて、フェンスに叩きつけられてて。別に大したダメージは与えられなかったんだけど」
「フェンスまでってことはかなりの力が必要だよなあ。あの位置じゃ、突き飛ばしたっていうのも無理があるし……」
「口で言うのは難しいや。実際にあの現場を見てたらわかったのかもしれないけど」
「ここで試すわけにもいかないもんな」
眉間に皺を寄せながら首をひねった翔の言葉に、怖いこと言わないでよ、と琴子は俯いた。
すると自分の膝小僧が目に入り、そこに二つ並んだ青痣に気づく。
(あースカートはいてきちゃった……)
見栄えの悪さを後悔しながら、隠すように膝に触れる。あれから10日が経過するというのに、軽く押してみるとまだ痛んだ。




