5-2
「ご、ごめん……何?」
顔が赤くなっていないことを祈りながら詫びる彼に、琴子は整った眉を寄せ気遣わしげな視線を送る。
「大丈夫? どこか具合でも悪いの?」
「へ、平気さ、ちょっとぼーっとしてただけ……なんの話だっけ?」
気まずそうに顔を伏せる琴子。
そして膝の上でもじもじと指を組み合わせながら、ぽつりと声を漏らした。
「……翔にね、謝りたくて」
「え?」
彼女の横顔をまじまじと見つめる翔。
自分が言うべき言葉を先に言われてしまったことに、すぐには反応ができなかった。
「あの時、突然電話を切っちゃったでしょ? しかも、取り乱しちゃったりして……。本当にごめんなさい。
翔にまで異変が起きたことが怖くて仕方がなかったの。周りから、じわじわと何かが迫ってくるようで……。
そのことを知る前にもいろんなことがあっね。あのあと、一人で思いっきり泣いちゃった」
(やっぱり、俺のせいで琴子は……)
自分が電話をしたことで彼女を余計苦しめたのだと、翔は自責の味が滲んだ唇をかむ。
どうして電話などかけてしまったのだ。そのせいでこの三日間琴子は……。
「でもね。泣いた後、どうしてか少しほっとしてたの。
翔まで巻き込まれて、嬉しいわけじゃ絶対ないんだけど、これで私だけじゃなくなったんだって。
一人じゃなくなった気がして、安心したんだ。
ひどいよね、私。
突然異変が起こる怖さは、わかってるはずなのに」
エンジン音に溶けいりそうな琴子の声は、震えながらしぼんでいく。
自分と同じように、否、おそらくそれ以上に自らを責める琴子の姿。
不適当だとわかりながらも、翔は心がふっと軽くなるのを感じた。
「……そうだよ。一人じゃないんだ」
屈折した過程ながら、彼女に一人じゃないと思ってもらえたのがうれしかった。
琴子の言葉に応えるように、翔も自分の思いを吐露していく。
「俺が琴子に電話をしたのも、怖かったからなんだ。いきなり体から電流が出てきて、コンクリートの壁に穴まで開けちまって。そのとき浮かんだのが琴子の顔でさ、つい……。
俺だって琴子に縋ったんだ。自分だけじゃないって思いたかった。そのために、琴子を利用したようなもんさ」




