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0の刻印【第一部・すべての始り】  作者: やまかわ まよ
第5話【鮮緑の豪腕と共に】
46/76

5-2

「ご、ごめん……何?」


顔が赤くなっていないことを祈りながら詫びる彼に、琴子は整った眉を寄せ気遣わしげな視線を送る。


「大丈夫? どこか具合でも悪いの?」


「へ、平気さ、ちょっとぼーっとしてただけ……なんの話だっけ?」


気まずそうに顔を伏せる琴子。

そして膝の上でもじもじと指を組み合わせながら、ぽつりと声を漏らした。


「……翔にね、謝りたくて」


「え?」


彼女の横顔をまじまじと見つめる翔。

自分が言うべき言葉を先に言われてしまったことに、すぐには反応ができなかった。


「あの時、突然電話を切っちゃったでしょ? しかも、取り乱しちゃったりして……。本当にごめんなさい。

翔にまで異変が起きたことが怖くて仕方がなかったの。周りから、じわじわと何かが迫ってくるようで……。

そのことを知る前にもいろんなことがあっね。あのあと、一人で思いっきり泣いちゃった」


(やっぱり、俺のせいで琴子は……)


自分が電話をしたことで彼女を余計苦しめたのだと、翔は自責の味が滲んだ唇をかむ。

どうして電話などかけてしまったのだ。そのせいでこの三日間琴子は……。



「でもね。泣いた後、どうしてか少しほっとしてたの。

翔まで巻き込まれて、嬉しいわけじゃ絶対ないんだけど、これで私だけじゃなくなったんだって。

一人じゃなくなった気がして、安心したんだ。

ひどいよね、私。

突然異変が起こる怖さは、わかってるはずなのに」


エンジン音に溶けいりそうな琴子の声は、震えながらしぼんでいく。

自分と同じように、否、おそらくそれ以上に自らを責める琴子の姿。

不適当だとわかりながらも、翔は心がふっと軽くなるのを感じた。


「……そうだよ。一人じゃないんだ」


屈折した過程ながら、彼女に一人じゃないと思ってもらえたのがうれしかった。

琴子の言葉に応えるように、翔も自分の思いを吐露していく。


「俺が琴子に電話をしたのも、怖かったからなんだ。いきなり体から電流が出てきて、コンクリートの壁に穴まで開けちまって。そのとき浮かんだのが琴子の顔でさ、つい……。

俺だって琴子に縋ったんだ。自分だけじゃないって思いたかった。そのために、琴子を利用したようなもんさ」


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