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その時、彼の頭にふとある友人の顔が浮かんだ。同時に、一つの可能性が示唆されていることに気づく。
「なあ。休みが始まる前、不審者が襲ってきた事件があっただろ? あの時の琴子も変じゃなかった? フジセンの腕、何の医療器具もなかったのに治しちゃったしさ」
亮の言葉に、一眞の記憶の引き出しもこじ開けられる。衝撃的な出来事だ。決して忘れていたわけではないが、直近に様々なことがありすぎてすっかり埋もれてしまっていた。
「そういえば……。永谷先生も言ってたね、琴ちゃんが手も触れずにあの不審者を吹っ飛ばしたとか。あの時はまさかと思ってたけど、もしかしたら……」
二つの視線が絡み合う。
行き着いた答えが同じであることは、お互い口に出さずとも感じていた。
「……明後日、先生に話してみよう。もともと家族には話せないんだし、永谷先生ならちゃんと聞いてくれるよな」
「うん、僕もそれがいいと思う。みんなにはどうする?」
「ん……そう、だな……」
一眞の問いに、言葉を濁す亮。
やはり、あの姿を晒すことには抵抗があるようだった。
それを察したのか、一眞は彼の肩をぽんと叩いて明るい声で言った。
「まあ無理に実演してみせることはないよ。話だけでもしてみよう? 皆ならきっと信じてくれるよ」
「うん……そうだな。そうしよう」
2人で意見をまとめたその直後、階下でドアの開く音がした。
「ただいまー。亮君、来てるー?」
一眞の母の声に、亮は急いで階段を下りる。
するとそこには渋い顔をした自分の母親が。
「あ、あれ、遊園地に行ったんじゃ…」
「お父さんが明日もお休み取ってくれてね。今日は買い物だけ済ませて帰ることにしたのよ。
だから、遊園地は明日。寝坊したら承知しないからね」
「母さん……いてててっ」
むにっと頬をつねられ、亮は痛がりながらも嬉しそうに目尻を下げた。
「あ、そうだ。一眞くんも一緒に来ない? 都合がよければだけど」
「え? あ、でもそんな……申し訳ないです」
亮の隣で、控えめに返事をする一眞。
「いいのよ、香夏子も喜ぶし! 一人増えてもうちは全然平気だから」
「だってよ、行こうぜ」
亮がにやりと嬉しそうに一眞を小突いた。
一眞もにっと笑い、そして頷く。
その後も止まらぬ母親同士の会話にしびれを切らし、二人は庭に出てサッカーに興じることにした。
夕日に照らされて伸びた二つの影法師は、その輪郭をおえなくなるまで元気に芝の上を動き回っていた。




