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「警戒心なさすぎだろ。将来詐欺とか引っかかんなよ」
「だーいじょうぶ。家族と友達以外にはそんなことないから」
あと永谷先生もか、と言いながら亮の軽口に潜む感謝を感じとる。一眞はそれに気づかないふりをして、明るい笑顔を見せた。
亮もそれにつられたように噴き出し、しばらく2人で笑いあう。
「でもさ、これでわかったかもしれないことがあるよ」
ひとしきり笑った後、すっと真面目な表情を作り窓へ近づいていく一眞。
少し重い窓ガラスを引き、風を部屋の中に招き入れる。
最初よりはだいぶ見慣れた空気の揺れが、一眞の目には映っていた。
徐にそれに手をかざし、止まれと念じる。
ぴたっ、とかざした手の周辺の空気が動きを止めた。
(やっぱり……)
予想していた通りの現象に、彼は推測を八割方確信へと変える。
手の動きを横に流し、風の量を慎重に調整しながら行き先を亮に指定した。
「わっ!?」
やわらかな風は彼の髪の毛を優しく乱し、やがて空気へ紛れていく。
意志を持ったかのようなそれらの動きに、亮は思わず声を上げた。
「どうしてこんな現象が起こっているのかは全く分からないけど、おそらくこれはある程度僕たち自身の意思でコントロールができるものなんだと思う」
窓を閉め、ベッドに座った一眞の言葉に亮は反論する。
「え、でも俺が発火したのは自分の意思じゃないぜ?」
「僕が触った時は平気だったでしょ? 炎に包まれている腕をつかんだのに、見ての通り何の怪我も負ってない。それに、炎に包まれていた亮が立ってたあの絨毯にだって、ひとつの焦げすら見あたらなかった。発動に関しては判らないけど、たぶん発火した瞬間『傷つけたくない』とか、思わなかった? その意思が反映された結果があれなんだよ、きっと。
じゃないと、何で洋服が燃えないのかの説明もつかない。たぶんそれも亮の無意識の中で防いでたんじゃないかな。ここで全裸になるわけにはいかない、みたいな」
最後の言葉を冗談めかして言った一眞。
なんだそりゃと笑いつつも、亮は確かにと納得した。
黒焦げになったバスタオルを思い出す。あれも、自分が気づかないうちに触れてしまっていたからああいう結果になったのだろうか。それはそれで恐ろしい事実に、彼はぶるっと身震いをする。




