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一眞の頬を伝う、一筋の涙。
それは自分が覚悟していた表情とはだいぶ違うもので、亮は思わず面食らう。
涙はあとからあとからとめどなく溢れ、一眞の顔を濡らしていった。
「……かった…………良かった……! 僕、亮が死んじゃうと思ったから……」
無造作に丸められた紙をのばした後のような、くしゃくしゃの声。
袖でぐいっと目元を拭い、一眞は未だ炎が包む親友の腕をなんの躊躇いもなく掴んだ。
それはあまりにも自然な動作で、亮はその手をよけることも払いのけることもできなかった。
黒焦げになったバスタオルが脳裏をよぎり、思わず顔を背ける。
しかし苦痛にうめく声も悲鳴も上がることはなく、どうしたの?という声におそるおそる視線を元に戻した。
めらめらと腕を包む炎は、依然消えてはいない。
しかし、それらは一眞の手を一切傷つけることなくゆるりと包み込んでいた。
「お前……火傷するかもとか考えなかったのかよ……」
心の底から安堵するとともに、呆れた声で亮は言う。
そういえばそうだね、と今更のように一眞は頷き、そしてにっこりと笑った。
「だって、これは亮が出してるものなんでしょ? それだったら大丈夫と思って」
あっけらかんとした物言いに緊迫感はとうとう消え失せ、それと共に炎もしゅるしゅるとしぼみ、消えていった。
礼を言うべきなのだろう、と彼は思う。
怖がらずにいてくれてありがとうと。
だが今の様子を見る限りだと、怖がるわけがないだろうと逆に怒られてしまいそうだった。




