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二階へ上がり、ガチャ、と教室の扉を開ける。
琴子のほか4名のクラスメイトは既に教室に集まっており、彼らのおはようという声に応じながら彼女は教室へ足を踏み入れた。
「目、覚めた?」
バスの中で琴子を小突いて起こした友人、後藤翔が笑いながら彼女に話しかける。
がっしりとした身体に、耳にはピアス。髪の色も薄い茶色で、所謂少し不良のような外見をしている。
身長もゆうに180センチを超えているだろう。
顔つきも精悍であり一見冷たそうな怖い印象を与えるが、友達想いで少し不器用な、優しい男子生徒だった。
「まだ。眠い」
「お前涎垂らしてたぞ」
「えっ、うそ!」
「うっそーん」
おどける翔のツンツンとした短髪を軽くはたき、琴子は自分の席についた。
「目ぇ覚ましてやるために言ったのにー!」
翔の抗議の声を聞き流し、彼女は鞄から1時間目の教科書を取り出す。
「なに、まさか夜遅くまで勉強してたとか?」
自らの机に腰を下ろしたまま、くりっとした目が印象的な少年、春馬亮が言った。
くしゃっとした髪の毛に、彼のチャームポイントとも言える明るい茶色の瞳がきらきらと輝いている。
元気で活動的な性格であり、得意教科はもちろん体育。
クラスのムードメーカー的存在だ。
日本にいた頃は格闘技を習っていたらしく、背はそこまで高くはないがTシャツの袖から覗く腕はしなやかな筋肉に包まれているのが窺えた。
「そうそう、偉いでしょ?」
「うそつけよ、どうせマンガでも読んでたくせに」
さらりとついた琴子のささやかな嘘はすぐに見破られてしまい、彼女はそれにまた無意味な反論を返す。
「違うよ、本だもんね」
「勉強じゃないんだね」
亮の隣でやっぱり、というように色白の少年が笑った。
色素の薄い髪の毛がさらりと揺れ、周りの空気を擽る。
少し垂れた目を細め、倉敷一眞は亮と笑い合った。
白くきめの細かい肌、中性的で整った顔立ち。
その外見のせいか繊細で病弱そうな印象を周りに与えるが、日に当たってもなかなか肌が焼けない体質だそうで至って健康な男子高校生だ。
頭が良く物知りで、成績もメキシコにいながらにして日本の高校生の中でトップクラスに位置している。
意外にも、正反対に見える亮とは一番仲が良かった。




