4-10
「一眞っ!」
外からドアを引かれ、不可抗力で一眞は前につんのめった。
亮の青ざめた顔が、視界いっぱいに広がった。
「一眞、無事だったんだな! よかった……!」
とりあえずの無事を確認し、亮はほっと瞳を和らげる。
対する一眞は、先程の現象を見られたのかもしれないと緊張を走らせた。
「どうしたの、一体」
中に招き入れ、努めて普段と変わらぬように冷蔵庫を開けながら尋ねると、亮は再び表情を険しくした。
「どうしたのって……!
お前ん家に行こうとしたら塀から竜巻みたいなのが見えて、お前にまで何かあったんじゃないかって思ったんだよ!
もしかして気づいてなかったのか?」
一眞のジュースを注ぐ手がぴたりと止まる。
背を向けていてよかったとほっと息をつき、彼は口角を上げ微笑みを作った。
振り返り、ジュースの入ったコップを亮に渡す。
「なに言ってるのさ、亮。竜巻?」
偽りの微笑みは、普段よりも瞳の外側が笑う。
それを隠すかのように、一眞は自分用に注いだジュースを一気に煽った。
「そんなのあるわけないだろ。今日は竜巻が起こる条件なんて揃わなさそうだし」
中身を飲み干し、正面に戻したその顔の微笑みは絶やされておらず、亮は一瞬彼の言うことを信じかける。
しかし、一眞の手が自らの口元へと運ばれたのを亮は見逃さなかった。
一眞には嘘をついたり隠し事をしている時やその直後に、口元を触る癖がある。
今も、まるで事実を話さぬ自らを罰したがるかのように、その唇に触れていた。
「……なあ。なんでだよ?」
思わずそう声をかける亮。
友達に嘘をつくなんて、という怒りではない。隠し事くらい誰でもする。
しかし、今回の出来事はとても一眞ひとりでは解決しきれない問題のはずだ。いくら頭がいいとはいえ、まだ高校生なのだから。
そんな時彼が相談したいと思う相手に自分が上がっていないことが、亮はたまらなく寂しかった。




