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――――熱い…!!熱い熱い熱い!!!!
石造りの床の上で亮はのたうち回った。
わずかな冷たさを求め口元を床に押し付け息を吸う。
霞んだ視界に、自分の腕が映った。
(なっ……!?)
炎が、めらめらと彼の腕を覆っていた。
それは腕から徐々に、嘗めるように顔の方へと広がっていく。
火を消そうと必死で体を払った。だが努力も空しく、その浸食を止めることはできない。
よろよろと立ち上がり、鏡に映った自分の姿を見、驚愕した。
頭から足の先まで、全身を炎が包んでいる。
いつの間にか体を蝕んでいた熱は治まっていたが、代わりに腹の底から凍てつくような恐怖が彼の体内を支配していた。
「な、んだよ…これ」
発泡スチロールを擦りあわせた音に似た、自分のかすれた声が不自然に耳に届いた。
普通なら焼死しているはずだ。あっという間に。
それなのに、今の彼は痛みも苦しみも何も感じてはいなかった。
恐ろしさが喉を突き上げ、彼は叫びながら全身を叩き、石の壁に何度も体をぶつけた。
「消えろ!消えろっ!消えてくれよ!!!!!」
懇願するように言い続けた彼の願いが通じたのか、炎は徐々に薄れ始め消えていく。
手のひらに残った最後の炎が消えるのを見て、亮はほぅっと息をつき床にへたり込んだ。
夢を見ている、と思いたかった。
(そうだ…これは夢だ。早く顔を洗って目を…)
洗面台にかじりつく彼に、鏡は無情にも事実を突きつける。
タオル掛けに申し訳程度に引っかかっている、黒焦げの物体。
ばっと振り返り、震える手でそれを取った。
風呂上りに使う、バスタオルだった。
何度も身体を壁にぶつけたあの時、自分の体に触れたのだろう。
夢じゃない。
恐ろしさに足が震えた。
(なんで、どうしてこんな…!)
起こった出来事をのみこみ切れず、亮は頭を抱えて呻く。
脳裏に焼きついた、鏡に映った自分の姿に全身が震えた。
追い詰められた人間の多くは、二通りの行動をとる。
ひとりで抱え込んでしまう者と、誰かに話すという選択肢がすぐに浮かぶ者。
亮は後者の人間だった。そして、浮かんだ相手は
「…一眞」
クラスメイトであり、無二の親友の一眞。
幸い車でないとお互いの家を行き来できない友人が多い中、一眞の家だけは彼の家の斜め前に位置しており唯一容易に会うことができる相手だった。
(あいつなら…)
急いで服を着替え、階段を駆け下り鍵を引っ掴む。
勢いよく開けられた扉が、亮の背後でゆっくりとその口を閉じた。




