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0の刻印【第一部・すべての始り】  作者: やまかわ まよ
第4話【それぞれの休日】
33/76

4-5

ガレージのドアが開く、重い音が聞こえてきた。

翔ははっと立ち上がり、急いで壁の穴の前に置物を移動させる。

母親が自分を呼ぶ声が聞こえ、庭にいる、と返事を返した。


(あっ、芝生…!)


えぐれた芝生の上に、咄嗟に近くにあったサッカーボールを置く。


「翔?なあに、まだサッカーやってたの?」


「あ、ああ…早かったね、今日」


母親の目線がサッカーボールを通り過ぎる度ひやりとしながら、不自然にならぬよう必死で平静を装った。

不意にぽつ、と頬に冷たいものを感じる。


「あ、雨だわ! 翔、早く中に入りなさい! ボールはちゃんと倉庫にしまうのよ!」


洗濯物洗濯物、と呟きながら裏口へと走る母親。

雨足はすでに叩きつけるような強いものへと変わっており、翔はボールを倉庫へ入れに広い庭を走った。

ほんの何秒かの間だったが、Tシャツは濃い色へ変わってしまっていた。

ボールを放り込み叩きつけるように降る雨を倉庫の中から眺めながら、彼は大切な友人に思いを馳せた。


永谷の話によれば、あの不審者の男を追い払えたのも、彼女に突然生まれた現実的でない力によるものらしい。

琴子は、ずっと一人で闘っていたのだろうか。

自分の身体に突如起こった異変を目の当たりにする恐怖と。

思い返してみれば、見舞いに行った日も顔色が良くなかった。

溜息をつき、自らを責める。

どうして、せめて学校の始まる日まで、自分の中にしまっておく事ができなかったのだろう。

こういう時に露呈する自分の弱さに嫌気がさしてならなかった。


(結局俺は、一番の小心者なんだ。一番デカイ図体しておきながら)


走って戻る気には到底なれず、とぼとぼと雨の中を歩いた。

学校が始まる日のスクールバスの中で謝ろう。そう心に決めるも、彼女が学校を休んでしまったらどうしようと又悶々とする。

暗雲の垂れ込めた空から、微かにゴロゴロ…という音が聞こえてきた。


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