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ガレージのドアが開く、重い音が聞こえてきた。
翔ははっと立ち上がり、急いで壁の穴の前に置物を移動させる。
母親が自分を呼ぶ声が聞こえ、庭にいる、と返事を返した。
(あっ、芝生…!)
えぐれた芝生の上に、咄嗟に近くにあったサッカーボールを置く。
「翔?なあに、まだサッカーやってたの?」
「あ、ああ…早かったね、今日」
母親の目線がサッカーボールを通り過ぎる度ひやりとしながら、不自然にならぬよう必死で平静を装った。
不意にぽつ、と頬に冷たいものを感じる。
「あ、雨だわ! 翔、早く中に入りなさい! ボールはちゃんと倉庫にしまうのよ!」
洗濯物洗濯物、と呟きながら裏口へと走る母親。
雨足はすでに叩きつけるような強いものへと変わっており、翔はボールを倉庫へ入れに広い庭を走った。
ほんの何秒かの間だったが、Tシャツは濃い色へ変わってしまっていた。
ボールを放り込み叩きつけるように降る雨を倉庫の中から眺めながら、彼は大切な友人に思いを馳せた。
永谷の話によれば、あの不審者の男を追い払えたのも、彼女に突然生まれた現実的でない力によるものらしい。
琴子は、ずっと一人で闘っていたのだろうか。
自分の身体に突如起こった異変を目の当たりにする恐怖と。
思い返してみれば、見舞いに行った日も顔色が良くなかった。
溜息をつき、自らを責める。
どうして、せめて学校の始まる日まで、自分の中にしまっておく事ができなかったのだろう。
こういう時に露呈する自分の弱さに嫌気がさしてならなかった。
(結局俺は、一番の小心者なんだ。一番デカイ図体しておきながら)
走って戻る気には到底なれず、とぼとぼと雨の中を歩いた。
学校が始まる日のスクールバスの中で謝ろう。そう心に決めるも、彼女が学校を休んでしまったらどうしようと又悶々とする。
暗雲の垂れ込めた空から、微かにゴロゴロ…という音が聞こえてきた。




