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ガキッという固い音が耳に刺さり、翔はびくりと受話器から顔を離した。慌てて再度耳を当てるが、聞こえてくるのは通信の遮断を伝える無機質な通知音のみ。
「くそっ!」
激しい後悔の念に思わず悪態をつく。手を額に当て深い溜息をつき、そのままガシガシと自分の頭をかいた。
(話すべきじゃなかったんだ…)
どうして彼女の様子がおかしくなったことに気がつかなかったのだろう。
いや、その前に何故、彼女に電話などしてしまったのか。ほんの5日前に命の危険に晒され、事件の渦中に追いやられていた女の子に。
少しずつ忘れられていたものを、自分が無理やり思い出させてしまったかもしれないのだ。
己の思慮の浅さを呪い、翔は頭を抱えた。
壁に空いた穴を思い出し、両親に見つかる前に隠さなければとふらふら立ち上がる。
幸い穴はそこまで大きくはないから、庭に置いてある置物をずらせば見つからないだろう。
庭に出た翔は、情けない顔で自分の手のひらを見つめた。何の変哲もない、いつもの手。ここからいきなり電流が出たなんて…
(まるでマンガじゃんか…)
弱々しく苦笑したその時、右手に纏わりつくように再び黄色味がかった電流が流れ始めた。
「なっ!?」
とっさに手を下の芝生へと向ける。その勢いで放たれた電流は、バチバチと音を立てながら芝生を深くえぐった。
落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら必死に電気の飛び出した手を摩る翔。
恐ろしさに、目には涙が滲む。
しゃがみ込んで膝に顔を埋めた。
これがマンガの中の主人公に起こった事だとしたら、きっと今すぐにでも魔物退治や悪者成敗に向かうのだろう。
ベタとは思いながらも、その展開にはいつもワクワクさせられていた。
自分にも何か特別な力があれば、と羨ましくさえ思っていた。
しかし現実で自分の身にそれと同じような出来事が起こった今、彼の中にあるのは強い決意でも高揚感でもなく、ただの恐怖心と戸惑いだけであった。
マンガの主人公に憧れるのは、それが現実とはかけ離れた場所にある事を知っているから。
自分は変わらぬ平和な現実の中から、覗いているだけの世界だからだ。




