表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0の刻印【第一部・すべての始り】  作者: やまかわ まよ
第4話【それぞれの休日】
30/76

4-2

『さっき、庭で1人でサッカーの練習してたんだ。そしたら俺の周りをぶんぶん虫が飛び回ってさ。手で払ってもなんでか俺のそばに寄ってきて、イラっとしてさ。平手で……こう、叩こうとしたんだ。

そしたら……』


言い淀む翔。琴子は黙って続く言葉を待った。お願いだから、自分が想像している類のことは言わないでくれと願いながら。


『……電気が、出たんだ。俺の指から』


「……え?」


喉にひっかかったような、少しかすれた声が出る。

まさか、冗談でしょ?そう笑い飛ばしてしまいたかったが、彼女の中でむくむくと大きくなっていく不安と、心細さが滲み出たような翔の声が、それをさせてくれなかった。


『俺も嘘だと思ったよ!でも俺の指から電流が見えた後虫は黒焦げになってたし……。まさかとは思いながら試してみたんだ。手に意識を集中して、腕を前に出してみて。

そうしたら身体がかーって熱くなって、バチッ!って音がしたかと思ったら壁に穴が空いてた……。マジだぜ? これ。

俺、どうしたらいいかわからなくて……こんなこと親にも相談できねえし……

ふっと琴子のこと思い出して、何かわかるかもって電話したんだ』


壁に穴が空いた、という言葉に琴子はひゅっと息をのんだ。幸か不幸か翔はそれに気づかず、そのまま話は続いていく。彼女の脳は情報を処理しようと奔走するが、それをままならなくさせるほどの恐怖が身体を支配していた。

それに、情報を処理するまでもなく、琴子は翔の声を聞いた瞬間その微小なシグナルを受け取っていたのだ。そこから必死で目をそらそうとしていただけで。


(翔まで……? どうして……)


声が出ない。自分以外に異変が現れたという空恐ろしさが、彼女の声帯を塞いでいる。


『もしもし、琴子?聞こえてる?」


「ご、めん……あの、またあとでっ……」


翔の声に答えなければと琴子は無理やり声を絞り出すが平静を装うことは不可能に近く、ようやく翔は彼女の様子がおかしいことに気がついた。


『ご、ごめん! 俺、ただ琴子なら何かわかるかと、そんなつもりじゃ……!』


「ううん……平気だから……」


直後、琴子の震える手から受話器が滑り落ち、フックへとぶつかった。

ツー、ツー、という音が微かに聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ