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すたすたと出て行く永谷の後を追いかけクラスメイトたちが慌ただしい別れを彼女に告げる中、響だけが自分の鞄をごそごそと探っていた。
「…あった。はい、これ」
響が彼女に手渡したのは、一冊の本。
琴子に貸していたシリーズの最新作だった。
「昨日、日本から届いたんだ。琴、続き楽しみにしてたからさ」
予想だにしない手土産に彼女は顔を輝かせる。
「わあ! あ、でもまだ響は読んでないんじゃ……」
「いいよ、琴の快気祝いってことで。1週間あれば余裕で読めるだろ? それに俺、まだ読んでないやつもあるしさ」
嬉しそうにページをめくる琴子を、さらに嬉しそうに目を細めて見つめる響。
1週間もの間彼女に会えないのは寂しかったが、これでまた本の話で盛り上がれるだろうと思うと、彼は胸を高鳴らせずにはいられなかった。
「じゃあ、行くな。よく休んで」
「うん、ありがとう!ばいばい」
響に別れを告げ、後には琴子と、消えゆく蜃気楼に似た幾つかの気配が残される。それが余計、寂しさを増長させた。
琴子は小さく息を吐き、渡された本を軽く抱きしめる。
(とりあえず1週間は、考えるのはやめておこう。変な男についても、力についても)
永谷の言葉通りならば、1週間後にいろいろわかるはずだ。それまで目を背けていても、別にバチは当たらないだろう。
嬉しそうに微笑みながら本の表紙を撫でる。
(早くゆっくり読みたいな)
自室のベッドを、ひどく恋しく感じた。




