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「覚えているというか……まあ、なんとなく。不審者の男を衝撃波みたいなので吹っ飛ばしたりとか、藤先生の腕をくっつけたりとか……
……そんなこと、あるわけないんですけどね!」
そう冗談を言う時のように笑って見せるも、その笑い声は虚しく乾いていく。
誰か笑ってくれないだろうか。琴子は思った。
これでは、自分の話したことが本当にあったことになってしまうじゃないか。
「記憶はあるみたいだな……」
永谷は確認するように少し頷き、そして真剣な顔で彼女の手を握る。
「いいか、琴子。お前の記憶に残っている出来事は、全て本当にあったことだ」
彼は本当に大切な話をする時のみ、琴子のことを苗字ではなく名前で呼ぶ。
それは彼女がまだメキシコに来て間もない中学一年生、そして永谷がその担任を受け持っていた時から続く、2人の一種の合言葉のようなもの。だからこそ琴子はその言葉が嘘ではないことを理解した。理解せざるを得なかった。
永谷の話は続く。
「お前が大和たちを助けに行った後の出来事、見てたよ。指一本触れずに男を吹き飛ばしたところも全部。本当なら真っ先に生徒たちを避難させなきゃならない立場だったのに、それを全部響たちに任せちまった。教師失格だよな」
自嘲気味に笑う永谷の後ろで、翔が遠慮がちに口を開いた。
「俺たちはそれは見てないんだけど、フジセン……藤先生の腕を琴子が治したのは見てたんだ。遠巻きにだけどな。
あの後、琴子が病院に連れて行かれたのと一緒に藤先生も診察を受けた。そしたら、擦り傷程度しかなかったらしくてすぐに学校に帰ってきた。琴子が治した腕のところも見てもらったけど、治療した後なんて全く残ってないって。
夢じゃないかと思ったけど、俺は琴子が先生の腕を治すところを見てる。俺だけじゃないぜ、みんなも、永谷先生だって見てるんだ。
なにがなんだか全然わかんねえけど、夢じゃないことだけは確かだよ」




