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「琴子! 目覚ましたんだね!」
「亮、少し声落とせ。ここ病院なんだから」
嬉しそうに声をあげ顔を綻ばせる彼の背後から、永谷が窘めるように頭を軽く小突く。
さらにその後ろから翔、一眞、響も姿を現した。
「さっきおばさんに会ったよ。琴ちゃんが気がついたってそこで聞いてさ」
「琴、大丈夫? 辛くない?」
次々と現れた友人に、琴子は驚きと嬉しさを露わに身を乗り出した。
「みんな、来てくれたの?」
「そりゃくるさ。当たり前だろ?」
平然と翔が言ってのける。
それに頷き、亮が不満げに口を尖らせながらこうこぼした。
「永谷先生なんて昨日も一昨日もここに来たっていうんだ。俺たちは1人じゃ外に出られないし、先生ばっかずるいだろ?だから昨日先生に電話して、今日はみんなで連れてきてもらったんだよね」
「お前、簡単に言うけど一人一人拾っていくの結構面倒なんだからな? ったく……」
顔をしかめ溜息をつく永谷と、それを笑う友人たちを眺めながら琴子はほっと息をついた。
あのまま1人でいたら、思いつめ取り乱してしまっていたかもしれない。本当に、いざという時に頼りになるクラスメイトだ。
「どうだ?体の様子は。3日間意識がなかったんだ。まだ本調子じゃないだろうが……」
「だいぶ良くなりました。痛むところもそんなにないし……」
永谷の声に明るく答える彼女だったが、彼はその奥に潜む心労を見逃さなかった。
本来ならば事件の話は避け、他愛のない話をするべきなのだろう。しかし、彼女には休みに入る前にどうしても伝えなければならないことがあった。幸いなことに、家族も席を外している。話すとしたら今しかないと、永谷は判断した。
「白井。覚えてるか?あの時なにが起こったか、そして自分がなにをしたのか」
その質問に琴子の笑顔は消え、困ったように目を伏せた。
「先生、別に今聞かなくても……」
「大切なことなんだ。白井、答えてくれ」
一眞の声を遮り、永谷は彼女の顔から目を離さない。
琴子はぴくりと肩を動かし、そして少しずつ話し始めた。




