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0の刻印【第一部・すべての始り】  作者: やまかわ まよ
第3話【十字の刻印】
21/76

3-1

ふと、なんの前触れもなく琴子は目覚めた。

気怠い意識の中で目を開けようとするが、思っていたよりも瞼は重く、少しの労力を要する。

なんとか目を開けると、ぼんやりと白い天井、そして誰かの顔が自分を覗き込んでいることに気がついた。


「琴子?気がついた?ここ病院よ」


その声と、徐々に焦点の合ってきた視界からそれが自分の母親であることがわかる。


「お母さん……」


「琴子!よかった……」


返事を返した琴子を、ほっとした顔で優しく抱きしめる母親。その目の下は、クマで色濃く縁取られていた。


「永谷先生から話は聞いたよ。大変だったね……」


重い頭で、琴子は記憶を遡る。

突然の襲撃。大きな男。不可解な力。そして……


「大変だったね、不審者に侵入されるなんて……でも大和やみんなを先に逃がして守ってくれたんだって? ありがとうね」


母がそう言って愛しげに彼女の頭を撫でた。その温もりに溯ろうとした記憶は一旦遮られ、代わりに止めどない安堵感が心に溢れる。

泣くまいと、琴子は下を向いた。


「あなた、3日間も寝続けてたのよ。ドクトール(※医師のこと)は過度の疲労と貧血だって」


「3日!? そんなに寝てたの?」


驚いて顔を上げる。この気怠さは過眠ゆえか。


「学校はどうなって……」


「一昨日から修理が始まって、明日からあと一週間はお休みになるみたい。ゆっくり休みなさいな」


早いな、と思った。

二週間で終わる工事に半年かかるのがメキシコだ。

それに、少なくとも自分の教室の倒壊具合は結構酷いものだったと琴子は記憶している。おそらくは他の教室も似たり寄ったりのはずだ。

それを10日で。

どこか大きな会社にでも頼んだのだろうか。


「お母さん、ドクトールを呼んでくるわね」


そう言い残し、母親は病室を出て行く。

琴子はゆっくりとベットの上に身を起こした。

後頭部のあたりが重く感じる。ゆるゆると首を振ると次第に治っていった。


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